弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 刑の一部執行猶予制度スタート

<<   作成日時 : 2016/06/07 20:11   >>

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6月1日から施行された、刑の一部執行猶予制度。さっそく各地の地方裁判所で、被告人に一部執行猶予付き判決が言い渡され始めています。
今のところ、私は、簡単な新聞記事で概要を把握しているだけで、各事案の内容や量刑判断に結びついた事情など、具体的な部分はわかりませんが、新たな制度が想定していた多様なパターンが出そろったようです。

<執行猶予中の再犯者に対する一部執行猶予の例>
@千葉地裁 6月2日判決
 被告人 40歳女性
 事件  覚せい剤取締法違反(使用・所持)
 判決  懲役2年、うち6月を2年間の保護観察付執行猶予(求刑:懲役3年)
 前刑  2015年3月、懲役2年6月執行猶予4年(執行猶予中)
A大阪地裁 6月2日判決
 被告人 28歳男性
 事件  覚せい剤取締法違反(使用)
 判決  懲役1年4月、うち4月を2年間の保護観察付執行猶予(求刑:懲役2年)
 前刑  2014年、覚せい剤・窃盗で執行猶予中

刑法に新たに設けられた刑の一部執行猶予(27条の2)は、その対象として、初めて実刑判決を受ける被告人が想定されていて、その典型的な例が、執行猶予中(保護観察付も含む)に再び罪を犯した人です。
この規定が適用されるのは、薬物事犯に限らないのですが、再犯防止の観点から、一部執行猶予が言い渡されるという新制度の趣旨に照らして、当面は、再犯防止処遇がすでに稼働している薬物事犯での言い渡しが中心になるだろうといわれていました。今後、保護観察の体制が整えば、窃盗など他の犯罪にも適用される可能性があります。
保護観察に関しては、刑法の規定では、必ずしも保護観察を付けることが要求されてはいません。この刑を受ける対象者のなかには、更生を支える環境が整っており、自力での改善更生を期待できる人もあり、保護観察の当否は裁判所が個別に判断するとされています。
なお、執行猶予中に再犯して、一部執行猶予判決を言い渡された場合は、前の刑の執行猶予は取り消され、宣告されていた刑を実際に受けなくてはなりません。

<累犯者に対する一部執行猶予の例>
B名古屋地裁一宮支部 6月2日判決
 被告人 40歳男性
 事件  覚せい剤取締法違反
 判決  懲役2年、うち4月を2年間の保護観察付執行猶予
 前刑  2009年 1年6月の実刑判決で服役 
C福岡地裁 6月3日判決
 被告人 30歳女性
 事件  覚せい剤取締法違反(使用)
 判決  懲役2年4月、うち6月を3年間の保護観察付執行猶予(求刑:懲役2年6月)
 前刑  実刑で出所後約1年半で再犯
D札幌地裁 6月6日判決
 被告人 47歳女性
 事件  覚せい剤取締法(使用)
 判決  懲役3年、うち10か月を3年間の保護観察付執行猶予(求刑:懲役3年6月) 
 前刑  同法違反で5回の服役あり

改正刑法と同時に施行された「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(以下「薬物猶予法」といいます)」は、薬物の使用や所持といった薬物事犯者に関して、前科を持つ人でも、一部執行猶予の対象となるよう定めています。つまり、懲役・禁固刑で服役した前科があっても、懲役・禁錮刑の執行終了から5年以内であっても、一部執行猶予の対象となるのです。
規制薬物に対する依存によって再犯してしまう人たちにとって、刑事施設内における断薬と処遇に引き続き、社会内で継続的な処遇を行うことが、再犯防止のうえで効果的だと考えられるからです。
刑事施設内での処遇と、社会内処遇の連続性を確保するために、一部執行猶予を言い渡す際には、必ず保護観察が付けられます。対象者は、刑事施設を出所した後、保護観察所の監督下で覚せい剤事犯者処遇プログラムを受け、定期的に保護観察所に出向いて教育課程を受講し、その都度、簡易尿検査を受けます。

●あくまで再犯防止のための施策
これまで、言い渡される刑は、全部執行猶予か、全部実刑しかなかったところへ、一部執行猶予という新しい選択肢が生まれました。
しかし、これは、全部執行猶予と、全部実刑との間に中間的な刑を生み出すものではないと、繰り返して説明されてきました。あくまでも、再犯防止の観点から選択されるものであり、被告人に科される刑を重くするものではなく、軽くするものでもない、というのです。

とくに、薬物猶予法に基づいて言い渡される一部執行猶予では、刑事施設内処遇に引き続いて社会内処遇を行うために、刑期の一部を執行猶予とする意味合いが強いため、自力で改善更生できそうな被告人は対象とならず、むしろ、保護観察も含めてより長期間の処遇が望まれるケースで、一部執行猶予の判決が下されることも考えられます。
そうなると、これまで私たちが抱いてきた、執行猶予即ち被告人にとって有利な判決、というイメージを改めなくてはなりません。

さて、刑罰に新たな要素を持ち込む、刑の一部執行猶予制度。薬物事犯者にとって、この新制度は何をもたらすのか、もう少し考えてみたいと思います。
次回も、一部執行猶予制度について続けます。

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内 容 ニックネーム/日時
なるみんです。いつも記事の転載させて頂いており、非常に先生のお話には毎度ながらご共感させていただいておりますが。今回のこの新法は裁判官ごときに薬物再犯者の更生意欲がどこまで分かるのかという
疑問と、それに伴う弁護活動が情状と帰住地などの面で非常に難しくなるように思えます。松本医師のスマープでは今のところ簡易尿検査で黒になっても通報しない方針ですが、保護観察所にも同時に行くのでしょうか?更によくよく見ると2年の実刑で4か月仮釈放貰った方が全然刑としては軽く逆に厳罰化しているように見えます。一部とかどうも中途半端な気もします。お時間があればブログ見に来てくださいhttp://ameblo.jp/narumin500/entry-12169862197.html
なるみん
2016/06/12 13:00

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