弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 覚せい剤使用者に運転免許停止

<<   作成日時 : 2016/06/03 15:23   >>

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つい先日、執行猶予付き判決が言い渡されて社会復帰した元スター選手Kさんに、今度は運転免許停止の話題が持ち上がっています。

<ニュースから>*****
●清原被告の免許停止検討=運転危険性を考慮−警視庁
覚せい剤取締法違反罪に問われ、執行猶予付きの有罪判決を受けた元プロ野球選手でタレントのK被告(48)について、警視庁が最長6カ月の運転免許停止処分を検討していることが1日、分かった。東京都公安委員会が行政処分を出す見通し(以下省略)。
時事ドットコム2016年6月1日 20:09
*****

運転免許の停止といえば、普通は、交通違反をしたり、交通事故を起こした場合の点数による処分を想像します。違反や事故の内容に応じて定められている点数によって、運転免許の取消しや停止等の処分が行われますが、酒酔い運転や、覚せい剤や麻薬を使用しての運転(交通取り締まり上は「麻薬等運転」と呼ばれています)の場合は、とくに重い点数が定められていることは、どなたでもご存知でしょう。

ところが、Kさんの場合は、交通違反で摘発されたたり、事故を起こしたわけではないのに、免許停止が検討されるというのです。

運転免許の停止や取消しについて定めているのは、道路交通法103条ですが、そこでは、免許を受けた者が「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者」に該当することとなったときは、公安委員会は、免許を取消し、または停止することができるとしています(103条1項3号)。

具体的にいうと、この条項が、免許を停止しまたは取り消す対象として、1号から8号までで定めているのは、次のような内容です。
・幻覚を伴う精神病、発作により意識障害・運動障害をもたらす病気など一定の症状を呈する病気にかかっている者、認知症、運転に支障を及ぼすおそれがある身体の障害が生じている者(1〜2号)。
・アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者(3号)。 
・交通法令に違反したことによって処分を受ける者。交通事故や違反行為には点数が割り当てられ、一定の点数に達すると免許の取消しや停止処分を受ける(5〜7号)。
・免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき(8号)。

しかし、実際には「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者(以下「薬物中毒」といいます)」であることを理由に、免許の停止や取消しが行われることは、これまでほとんどありませんでした。
2012年に作成された資料によると、この条項が現在の形に改正された2002年6月以降、2011年までの間に、薬物中毒による免許取消しは1件もなかったのです[下記参照@]。同期間中の、アルコール中毒による免許取消しは49件、認知症によるものは1500件を超えているのですから、薬物中毒による取消しが行われなかったのには、それなりの理由があると考えるべきでしょう。

私が思うに、覚せい剤や麻薬は、乱用行為そのものが極めて重い処罰を受けるため、あえて免許制度によって制裁を加えるまでもないと、了解されてきたのではないでしょうか。
たとえば覚せい剤取締法違反に問われた場合には、初犯者でも1年を超える懲役刑が言い渡されるのですから、アルコールの場合と違うと考えるのも、当然な気がします。

ともあれ、道路交通法が制定された1960(昭和35)年以来、法律の上では一貫して、薬物中毒者に対する運転免許の停止、取消しについての規定が設けられてきましたが、この規定がとくに注目される機会もありませんでした。2012年、てんかんなど一定の病気を持つ運転者に対する対策に社会の目が注がれ、検討を経て2014年の法改正に新たな対策が盛り込まれましたが、この検討過程でも、薬物中毒に関する規定について、突っ込んだ議論が展開された様子はうかがえません(下記参照A)。

●危険ドラッグ対策としての免許停止
薬物使用者と運転免許の問題に、社会の関心が注がれたのは、2014年のことでした。危険ドラッグ使用者による交通事故が社会問題になっていた2014年秋、乱用を鎮静化させるために、あらゆる手段が投入される中で、危険ドラッグ使用者に対して運転免許を停止する措置がとられたことは、皆様も覚えておられることでしょう。

このとき適用されたのは、法103条1項8号(いわゆる危険性帯有者に対する条項)でした。薬物中毒者に対して定めた同3号は、「麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者」と明記しているため、危険ドラッグ成分である指定薬物には及びません。また、当時の社会で問題を起こしていたのは、そもそも法規制の対象になっていない新種の薬物が中心であったことから、「道路交通の危険を生じさせるおそれ」として様々な内容をカバーすることができる同号が適用されたものです(下記参照B)。

当時は、危険ドラッグ使用者が自動車を運転して、重大な事故を引き起こすケースが相次ぎ、警察は、あらゆる法令を総動員して危険ドラッグ取締まりを強化していた時期です。危険ドラッグ使用者に対する運転免許停止という、前例のない対策の投入にあたっても、批判や疑問の声はほとんど聞かれませんでした。
しかし、皮肉なことに、この対策が各地で動き出したころには、危険ドラッグ販売店の壊滅によって、国内での流通は急速に縮小し、危険ドラッグ使用者による交通事故の発生も激減したため、動き出した新たな対策は、宙に浮いてしまったのです。
せっかく投入された新たな対策ですが、急速な時流変化の中で、その成果や問題点に対する評価や見直しの機会もないまま、今日に至っているというのが、私の見方です。

●薬物事犯者の免許を制限する必要性はあるか
さて、Kさんの事件を受けて、改めて、覚せい剤事犯者に対する免許停止を検討する意向が示されました。おそらく、執行猶予付き判決を言い渡され、社会生活に戻る人たちに対して、覚せい剤を使用して危険な運転をすることのないよう、一定期間、免許を停止するという趣旨なのでしょう。

たしかに、私たちは、近年の危険ドラッグ禍を通じて、薬物を使用して自動車を運転することの危険性を目のあたりにしてきました。覚せい剤によく似た作用を持つ興奮系の危険ドラッグも少なからず流通し、事件や事故を引き起こしてきました。
薬物運転を防止する対策が大切なのは、言うまでもないことです。

しかし、覚せい剤事犯者に対する免許の停止が、果たして有効な対策でしょうか。前述したとおり、危険ドラッグ対策として投入された免許停止策の成果は、検証されていません。しかも、免許停止に先んじて行うべき、啓発や教育の具体策はほとんど講じられていません。

いっぽう、免許停止はその対象者の生活に、大きな影響を及ぼします。執行猶予付き判決を得て社会復帰し、生活の再建にとりかかる人たちが、一時的とはいえ、運転免許を失うとしたら、働く機会を失い、生計を維持することさえ困難になることだってあるのです。
健全な生活の基盤を失えば、薬物との絶縁だって進展しません。
薬物運転防止にとって、薬物事犯者に対する運転免許停止の措置が、本当に必要なのか、またそれが有効なのか、もっと幅広い議論が必要だと思います。

[参照]
@警察庁「一定の病気等に係る運転免許制度の在り方に関する有識者検討会」第1回資料、2012年
https://www.npa.go.jp/koutsuu/menkyo4/siryo.pdf
A上記検討会の議事録は、警察庁サイトで公開されています。
警察庁サイト内「各種有識者会議等」
https://www.npa.go.jp/koutsuu/index.htm#soota
B当サイト内過去記事「危険ドラッグ所持で免許取り消し」2014/09/03
http://33765910.at.webry.info/201409/article_1.html

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覚せい剤を使用して運転することとその危険性の因果関係にはなにかレポートがあるのでしょうか。具体的に覚せい剤を使用して運転していてそれが原因で事故を起こしたと断言できるケースはどのくらいあるのでしょうか?
過剰に摂取して運転すれば、覚せい剤特有の精神効果で、怖さに対し鈍感になり高速を200Km/hで恐怖感を感じづに走行することは十分考えられますし、赤信号に変わりかけている状況でも恐怖感を感じず加速して通り抜けようとするでしょう。一方で少量の摂取ではどうでしょう。逆に集中力がまし判断力も早くなり事故の防止効果は上がるようにも思えます。それを一概に罪と結びつけるのはいかがなものでしょう。アメリカなどでは長距離トラックの運転手はメスを常用しているケースが多分にありますが、これは危険なのか安全なのかよくわかりませんね。また極端な話、高齢者が運転する車は赤信号でも平気で通過していたりします。判断の遅れだと思いますが、こんな危ない運転をされるぐらいなら高齢者に限りメスを少量服用して運転してもらったほうが安全性は上がるんじゃないかとさえ思えます。
危険ドラッグの場合でも事故を起こした原因物質は極度に強い意識を持っていかれる合成カンナビノイドの影響ではないでしょうか?精神賦活剤の影響はどのぐらいなのでしょう?そういう部分もきちんと因果関係を考える必要があるし、ましてや使用できない状態を強いられている状況で免許を停止するのはさすがに行き過ぎだと感じてしまいます。地方で車を取り上げられたら社会復帰どころか死活問題ではないでしょうか。近くの食料品店に買い出しに行くのに30Kmの片道を歩いて行けと言うのでしょうか。薬物を少しでも使ったものは社会から隔離し徹底的に罰を与えて見せしめにしたいというのがこの国の方針なのかもしれませんね。
lol again
2016/06/08 05:55

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