弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 執行猶予中の生活について10の質問

<<   作成日時 : 2016/06/01 01:06   >>

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元スター選手Kさんに、執行猶予付の判決が言い渡されて、今日は立て続けに、執行猶予について質問を受けています。繰り返して似たような質問を受け、同じような答えをして・・・、皆さんから寄せられた質問をざっとまとめてみました。

Q1、執行猶予とは?
A1、執行猶予とは、有罪判決で言い渡した刑の執行(懲役刑であれば刑事施設への収容)を一定の期間猶予し、猶予期間を満了すれば、宣告された刑の効力が消滅するという制度です。
猶予期間中は、資格制限などの制約を受けることがありますが、猶予期間を満了すれば有罪判決を受けたことによる制約がなくなります。

今回、Kさんに言い渡された判決は、
  被告人を懲役2年6か月に処する。
  この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
というものでした。
つまり、2年6か月の懲役刑を宣告されたのですが、その執行(現実にその刑を受けること)を 4 年間猶予するという意味です。
猶予期間中に犯罪に関わるなどすれば、執行猶予は取り消され、猶予されていた宣告刑―ここでは 2 年 6 か月の懲役刑―を現実に受けなければなりません。執行猶予期間中はこうした立場なのです。
また、執行猶予期間中は、基本的に、懲役刑を宣告された立場にあるので、資格をとる場合などに制約がありますが、猶予期間を満了すると、こうした制限はなくなります。


Q2 執行猶予期間を満了すると?
A2 執行猶予期間を無事に満了すれば、判決の言い渡しはその効力を失うと刑法は定めています。簡単にいうなら、宣告がされなかったことになるのです。
なお、執行猶予期間を無事に満了した場合に、当人には、とくに通知があるわけではありません。

<参考>刑法 27 条
第二十七条 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。


Q3 執行猶予中に犯罪に関わるとどうなりますか?
A3 執行猶予中に犯罪を行い、懲役刑または禁錮刑を言い渡された場合は、原則として、執行猶予は取り消され、猶予されていた宣告刑を実際に受けなくてはなりません。さらに、新たな犯罪に対して科される刑も加わるのですから、かなり長い期間にわたって服役することになります。
しかし、新たに言い渡された刑が1年以下の懲役または禁錮であれば、情状によっては、もう一度執行猶が付けられ、前の執行猶予が取り消されずに済むこともあります。これを「再度の執行猶予」といいます。ただし、保護観察付執行猶予の場合には、再度の執行猶予を受けることはできません。
懲役または禁錮1年以下の刑が言い渡されることの多い犯罪としては、被害者のない道路交通法違反や、万引、器物損壊などをあげることができます。
なお、駐車違反や制限速度超過などの交通違反は、刑事罰ではなく行政処分ですから、執行猶予中の身分と関係はありません。ただし、道路交通法違反として懲役または禁錮刑を言い渡された場合には、執行猶予の取消しが問題になります。

<参考>刑法25条2項、26条
第二十五条  次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
第二十六条  次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一  猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。


Q4、保護観察付執行猶予とは?
A4、保護観察付執行猶予を言い渡された人は、住所地を管轄する保護観察所に手続きをし、保護観察官及び保護司の指導監督を受けなければなりません。具体的には、月に2回程度保護司の面接を受け、生活状況などを報告し、指導を受けます。
保護観察中は、定められた遵守事項を守らなければなりません。
また、覚せい剤事犯者処遇プログラムを受講するよう定められた場合は、定期的に(月に2回程度)保護観察所で教育課程を受講し、その都度、簡易尿検査を受けることが義務付けられます。
もしも、尿検査で陽性反応があった場合は、覚せい剤使用の疑いがあるとして警察署に出頭しなければなりません。


Q5、執行猶予中に仕事はできますか?
A5、仕事をすることについて、制約は一切ありません。また、会社に就職することについても、制限はありません。
ただし、国家公務員の場合は、「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」は、その職に就くことができず、在職中の者は当然失職すると定められているので、たとえ執行猶予付であっても、懲役刑の宣告を受けた場合は、職を失います。地方公務員の場合も基本的には同様です。
<参考>国家公務員法 38条
第三十八条  次の各号のいずれかに該当する者は、人事院規則の定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない。
二  禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者

Q6、契約をしたり、ローンを組むことはできますか?
A6、通常の経済活動をするうえで、とくに制約はありません。また、一般的な契約やローンの申込にあたって、「あなたは執行猶予中ですか?」といった質問をされることは、まずないでしょうから、執行猶予中であることを理由に、契約やローンの申し込みが制約されることはないと思います。
また、ローン審査にあたって、前科の有無が調査されることも、ないと考えてよいでしょう。前科に関する記録は、警察、検察庁に保管されていますが、この情報が民間に流れるということはありません。


Q7、結婚することはできますか?
A7、問題はありません。ただし、保護観察付執行猶予の場合には、結婚など重大な生活上の出来事については、あらかじめ担当の保護観察官や保護司に申告するよう求められます。


Q8、引っ越しをすることはできますか?
A8、単純執行猶予の場合、問題はありません。保護観察付執行猶予の場合は、居住地を届け出なければならず、また転居する場合には事前に許可を得る必要があります。なお、保護観察付執行猶予の場合は、7日以上の旅行をする場合にも、許可が必要です。


Q9、海外旅行はできますか?
A9、執行猶予中の人がパスポートを申請すると、旅券課で個別に審査を受けることになります。当然、審査にはある程度の時間がかかるでしょうし、場合によれば、パスポートが発行されないこともあります。
  また、パスポートを持っていても、渡航先によっては、犯罪歴のある人の入国に対して厳しい対応をしている国もあり、執行猶予付き判決とはいえ、有罪判決を受けたことがあることで、入国が難しくなる場合もあります。
米国へ渡航する場合、薬物犯罪で逮捕された経歴のある人、有罪判決を受けたことがある人は(執行猶予中であっても)、ビザなし渡航はできず、事前にビザ申請をするよう求められます。また、執行猶予期間を満了した人も、過去に薬物犯罪で逮捕されたことがあれば、同じように、ビザを申請する必要があります。
一般的なビザなし渡航の手続きに沿ってESTAで事前申請をすると、その手続過程で「これまでに不道徳な行為に関わる違反行為あるいは規制薬物に関する違反を犯し逮捕されたこと、あるいは有罪判決を受けたことがありますか」という質問があり、執行猶予中の人は、Yesと回答しなければなりません。
なお、犯罪歴のある人の入国の取り扱いは、国によって異なるので、相手国の大使館などに問い合わせてください。

<参考>旅券法 13条
第十三条  外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。
三  禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者


Q10、選挙に立候補すること、投票することは?
A10、まず、立候補する権利、つまり「被選挙権」について。
いわゆる選挙犯罪など特定の犯罪で執行猶予になった場合を除き、執行猶予中であることは、選挙に立候補することの妨げにはなりません。執行猶予中に選挙に立候補することができない特定の犯罪とは、公職に就いていた間に犯した収賄、斡旋利得の罪、選挙に関する犯罪、政治資金規正法をさします。
投票する権利、つまり「選挙権」は、執行猶予中でも、失うことはありません。

<参考>公職選挙法11条
第十一条  次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一  削除
二  禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三  禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
四  公職にある間に犯した刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百九十七条 から第百九十七条の四 までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律 (平成十二年法律第百三十号)第一条 の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五  法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁錮以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者

<参考資料>*****
なお、薬物事件で有罪判決を受けた人、執行猶予付の判決を受けた人に対する制約などについてまとめた資料を私のHPに掲載しています。
やや古いもので、米国への渡航に関する事情などで事情が多少変わっていますが、ご参考までに紹介しておきます。

@薬物前科ってなんだろう
http://www2u.biglobe.ne.jp/~skomori/law/law4/
A資料:薬物事件で有罪判決を受けた人へ(PDF)
http://www2u.biglobe.ne.jp/~skomori/law/zenka2.pdf

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内 容 ニックネーム/日時
一部執行猶予制度が6月1日に施行されましたが
この解説もお願いしたいところです。
(3年ほど前の解説は拝見させていただきました)
猫次
2016/06/02 01:37

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