弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 執行猶予と情状|覚せい剤からの離脱

<<   作成日時 : 2016/05/30 16:34   >>

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覚せい剤の単純所持や使用罪の事件では、初犯者であれば、執行猶予付判決を受けることを期待することでしょう。刑法は「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」は、「情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その執行を猶予することができる」と定めています(25条1項)。

たしかに、初犯者であるという点は、刑の執行を猶予する有力な事情ですが、しかし、初犯者なら必ず執行猶予になるとまでは言い切れません。じっさい、少数ですが、初めて覚せい剤取締法違反で裁判を受け、実刑を言い渡される人たちもいます。
(なお、営利犯や輸入・製造などの事件では、有罪となれば実刑を言い渡されることが多く、執行猶予付判決を受けることは、かなり難しくなります。)

●ボーダーライン上のケース
私が事件を担当する際に、初犯者であっても、実刑が言い渡されるかもしれないことを念頭において進めるケースがあります。
たとえば
・単純所持で起訴されたが、所持量が多量で、自己使用目的とは言い切れない
・密売を疑われる人物との関係が密接であり、生活状況がきわめて不明朗
といった事情のある場合です。
言い渡される判決に執行猶予がつくかどうかは、上記のとおり、「情状により」判断されるので、こうしたケースでは、早い時期から裁判を視野に入れて、できるだけ有利な情状を積み上げ、執行猶予付判決に一歩でも近づくような計画を立てます。

覚せい剤の単純所持や使用の事件では、とくに初犯の被告人のほとんどは、薬物乱用という問題を抱えてはいても、ほかの犯罪に関わったことはなく、薬物問題を克服することさえできれば、社会や家庭の一員として、前向きな役割を果たすことのできる人たちです。
裁判を控えた緊張感の中で、薬物乱用と絶縁するための具体的な行動をスタートし、さらに執行猶予付判決を受けることができた場合は、猶予期間中も緊張感を失うことなく取り組み続けることは、とても重要なことだと思います。

取り組む目標は、大別すると2つあります。
ひとつは、覚せい剤使用をやめること。好奇心で使っている程度の人なら、本人が緊張感を持つだけで問題が解決することもありますが、依存的な使用を続けてきた人の場合は、専門の医療機関や自助グループなどの助けが有効なこともあります。
もう1点は、生活の立て直しです。覚せい剤を使うようになった背景、覚せい剤にのめり込むようになった生活状態、不明朗な交友関係、不安定な仕事、きままな一人暮らし・・・、薬物と縁を切って出直すとすれば、大きな方向転換が必要なことは山ほどあります。

●執行猶予に結びつく情状
刑事裁判での「情状」とは、量刑判断に影響を及ぼす様々な事情のことで、罪責を重くする<不利な情状>と、被告人のために斟酌すべき<有利な情状>を比較して、裁判官は言い渡す刑を判断します。

とくに不利な情状とされるのは、長期間乱用を続けたことや、友人や家族に注意されるなど、反省すべき機会があったのにやめなかったことなど。また、警察に薬物や尿を任意提出した後も使用を続け(その場で逮捕されなかったケース)、逮捕時にまた新たな薬物を所持していたり、尿中から覚せい剤が検出されたことなども強く非難されます。

いっぽう、次のような事情は、被告人に有利な情状として考慮されます。
・反省・・・真摯に反省している 罪を認め反省している
・薬物を断つ決意・・・専門家の助言を受ける 専門病院で治療を受ける 回復団体に参加する
・監督者・・家族、友人などが公判廷で監督を約束している
・悪質でない・・・乱用歴が浅い 使用が頻繁ではない
・生活基盤・・・安定した家族関係 定職についている 

判決では、こうした諸事象を取り上げ、そのバランスを検討したうえで、適切な刑を言い渡すことになります。
実際の判決書では、次のようになります。これは、最近の事例のうち似たようなものを数件選び出してつなぎ合わせた例文です。

<判決の例>*****
(量刑の事情)
本件は、覚せい剤を自己使用したという事案である。 
・・・被告人は、○年前ころより知人に誘われて覚せい剤を使用するようになり、疲れをとるためなどという短絡的な理由で使用を繰り返して本件犯行に及んだもので、動機に酌むべきところはないうえ、被告人の心身の不調を案じる家族の忠告にも耳を傾けることなく、違法薬物の使用を続けており、覚せい剤に対する依存性、親和性も軽視できず、その規範意識も希薄であったことがうかがわれ、被告人の刑責を軽く見ることはできない。
 他方、被告人が本件犯行を認めて真摯に反省し、今後は、生活改善や専門病院での治療も含め、覚せい剤との関係を断ち切るためにあらゆる努力をする旨誓っていること、被告人の妻も、公判廷で被告人の更生への協力を惜しまない旨誓約していること、これまで真面目に家業に従事し家族を養育してきたものであり、前科前歴もないことなど、被告人のために酌むべき諸事情があるので、今回は被告人に社会内で更生する機会を与えるのが相当であるから、主文のとおり刑を量定した。
*****

ところで、「情状」というと、本人の良い性格(まじめであるとか)を訴えることに目が行きがちですが、私たち弁護人が重視するのは、「犯罪後の情状」と呼ばれる部分です。
事件が発覚した後に、事後的ではあるけれど、弁償につとめたり、心からの謝罪を繰り返したりして、自分が引き起こした被害を償う努力をすることは、犯罪後の情状として、量刑に反映されるのです。

しかし、直接の被害者がいない薬物事件では、被害弁償や謝罪といった方法で贖罪の気持ちを表すことができません。
そこで、薬物事件の場合には、二度と薬物を使わない確かな決意を表すことで、犯罪後の情状に結びつけようと努めることになります。口先だけの反省とは異なる具体性や、そのためにすでに一歩踏み出していることなどにも触れ、被告人が社会内で更生できることを訴えるのです。

覚せい剤事件での情状、類型化されているようにみえて、意外と奥が深いものです。

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