弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 芸能界での薬物検査はありうるか

<<   作成日時 : 2016/04/01 16:49   >>

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元有名選手の薬物事件について、報道合戦も一段落したようですが、相変わらず「次のスキャンダル」の材料探しが、話題になっているようです。芸能やプロスポーツの世界では、関係者の気苦労もますますエスカレートしていることでしょう。

今日のスポーツ紙が、大手芸能事務所が薬物対策セミナーを開催したと報じています。これまでも、薬物事件の影響をしばしば受けてきた芸能界では、折にふれて薬物乱用防止対策が話題になってきました。
講演やセミナーの受講だけでは、抑止力として心細いと、薬物検査を導入してはどうかという話も、何度か繰り返されてきたと聞きます。

薬物検査・・・、一般には、尿などを採取して、薬物使用の有無を判定する検査のことですが、もう一歩踏み込んで、薬物乱用防止を徹底するための切り札のひとつです。欧米では、一般企業でも幅広く実施されています。
しかし日本では、公共交通機関の職員や、国土防衛にあたる自衛隊員などに対して導入された例はありますが、一般企業や団体などでの実施例はごく限られています。

日本では、職場での薬物検査導入に、なぜこんなに慎重なのか。その背景をまとめておきます。

●抑止力としての薬物検査とは
職場で行われる薬物検査とは、間違っても、薬物使用者をあぶりだすための検査ではありません。薬物乱用を防止する様々な活動の成果をより確実なものにし、ときには緩みそうになる緊張感を維持する、強力な抑止力をもつ手段として、薬物検査が行われます。

米国では、軍隊や警察、消防、公共交通機関などの公的機関をはじめ、一般企業でも、職員の健康管理や職場の安全管理に一環として、多くの職場で薬物検査が行われています。新たな従業員を採用する際には、健康診断とともに、薬物検査を受けるよう求められることも多いといいます。

また、米国で行われているドラッグ・コートは、検挙された薬物事犯者が、裁判所の監督下で社会生活を続けながら、定期的に出廷し、長期間かけてドラッグ・コートのプログラムを実践していくという仕組みですが、薬物を使わない生活を続けるために大きな役割を担っているのが、抜き打ちの薬物検査です。法廷に出席するたびに、薬物検査の指名を受けるかもしれないという緊張感が、なによりの歯止めになっていると聞きます。

●日本では導入に慎重な理由
欧米でも日本でも、薬物使用は禁止されています。しかし、日本では、薬物使用罪に関する取り扱いに、欧米とは違う事情があるのです。

欧米では、一般に「薬物使用」を犯罪とする規定がなく(法律の上では「薬物使用罪」が規定されている例もありますが)、尿中に薬物成分が検出されたことを根拠に薬物事犯が検挙されることは、ほとんどありません。
つまり、職場の薬物検査で陽性となった場合でも、その結果が、犯罪に直結するわけではなく、検査結果は従業員の健康管理上のデータとして扱われます。検査で陽性となった従業員は、薬物依存回復プログラムへの参加や入院などをすすめられ、問題を克服して職場に戻ることになります。

いっぽう、日本では、覚せい剤や麻薬の使用は犯罪とされています。覚せい剤使用が疑われる状況がある場合、警察で尿を提出するよう求められますが、提出した尿中に覚せい剤が検出された場合は、「覚せい剤使用罪」で逮捕されることは、皆様もご存知のとおりです。
職場で行った薬物検査で、もしも覚せい剤が検出された場合、その事実を握りつぶしてしまえば犯罪を隠匿したことになりかねません。また、そもそも、犯罪捜査につながりかねない薬物検査を、職場の管理者が従業員に強制してよいかという問題もあります。

もちろん、欧米でも、薬物使用が判明することは当人にとって極めて深刻なことであり、不利益な情報です。職場での薬物検査をめぐって、これまでに多くの訴訟も展開され、また検査データの乱用を禁じ、検査結果が解雇などの不利益処分に直結しないよう、様々なルールが生み出されてきました。

ところが日本では、いざ、職場で薬物検査の導入を検討するとなっても、頼りとする公的な指針やガイドラインがなにひとつありません。これまで導入してきたケースでは、外部の専門家を交えた検討委員会を立ち上げ、各方面から問題点を検討し、慎重に導入計画が進められたと聞いています。

●安直な実施はトラブルの元凶
最近では、誰でも簡単に扱うことができる、尿検査の簡易キットが各種出回っています。専門知識がなくても、こうしたキットを使えば、その場で薬物使用の有無を判定することができそうな気がすることでしょう。自分たちの職場でも、いちど検査をやってみようかと考える人もありそうです。

でも、ちょっと待ってください。検査を受ける従業員にどんな説明をするのですか。また、検査を拒む従業員があったら、どう対応するのですか。そして、もしも簡易検査で陽性反応が出たときは、どうするのですか。
何の準備もなく、安直に、市販の簡易検査キットで職場で薬物検査をすることだけは、決しておすすめできません。

職場での薬物検査をしてみようかと考えたら、まず、専門機関に相談してみることをお勧めします。日本にも、こうした薬物検査を請け負う専門の検査機関があります。「乱用薬物検査」のキーワードでインターネット検索すれば、信頼できる検査機関が見つかるはずです。

薬物検査は、薬物乱用防止対策の強力な切り札です。でも、安易な使い方はトラブルの元です。この機会に、職場の薬物乱用防止策をもう一歩進めるために、ぜひとも、慎重に検討してください。

[参考]
サイト内に、職場の薬物検査に関する記事があります。ご参照ください。
@日本の特殊事情への対応|職場の薬物検査1(2011/08/04)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_3.html
A力士解雇問題の残したもの|職場の薬物検査2 (2011/08/06)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_4.html
B薬物検査とは|職場の薬物検査3(2011/08/07)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_5.html
C簡易検査の落とし穴|職場の薬物検査4(2011/08/10)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_7.html
D陽性結果とその判定|職場の薬物検査5(2011/08/12)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_9.html
E警察への通報|職場の薬物検査6(2011/08/15)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_10.html

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内 容 ニックネーム/日時
芸能界にスポーツ界のように薬物検査を導入するアイデアは個人的に目から鱗でした
でも、なかなか難しいでしょうねぇ…
唐沢
2016/04/11 19:36

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