弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 「再犯率65%」という誤解|覚せい剤はやめられる

<<   作成日時 : 2016/03/23 23:37   >>

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日本中のメディアが、連日のように有名人の覚せい剤事件を取り上げていますが、そのなかで何度も登場するのが「覚せい剤はやめられない」、「覚せい剤事犯の再犯率が異様に高い」という言葉です。
そして、もっともらしく「再犯率65%」と報じられたりしています。
「覚せい剤の事犯の再犯率65%」などの報道をみると、覚せい剤事犯で裁判を受けた者の65%が覚せい剤事犯で再犯していると思うかもしれません。
でも、ちょっと待ってください。ここには明らかな誤解があります。

先ごろ発表された「平成27年における薬物・銃器情勢」では、2015年の覚せい剤事犯の再犯者率が約65%(64.8%)だったと報告されています(下記参照@、5ページ)。この数字を曲解した結果、「再犯率65%」などという誤解が生じているのでしょう。

この65%という数字は、覚せい剤事犯の「再犯者率」であって、「再犯率」ではありません。つまり、2015年中に全国の警察が検挙した覚せい剤事犯者11,022人のうち、「再犯者=何らかの検挙歴のある人」の割合が65%であったということなのです。
警察庁の統計では、「再犯者」とは、何らかの犯罪に関わって検挙されたことのある人を指し、「初犯者」とは検挙歴のない人を指しています。
ちなみに、同じような統計は検察統計にもありますが、ここでは、確定した有罪判決を受けたことのある人を「前科者(ぜんかしゃ)」と呼んでいます。また、犯罪白書ではおなじ意味で「有前科者」という言葉を使い、この言葉の意味をさらにはっきりさせています。

たしかに、再犯者の割合が多いということは、覚せい剤乱用者が再犯しやすいということにつながりますが、しかし、具体的なパーセンテージやその増減が、直接に、再犯しやすさの指標となるわけではありません。

その理屈は、覚せい剤事犯の「再犯者率」が、この20年ほどの間に大幅に上昇してきた経緯をたどってみれば、納得していただけることでしょう。
覚せい剤事犯の検挙者が急増し、約2万人に迫った1997年では、検挙者の過半数を初犯者が占めており、再犯者率は46.7%でした。ところが、21世紀に入った頃から覚せい剤事犯の検挙者が減少し始めましたが、この時期に目立ったのが初犯者の減少でした。覚せい剤乱用が縮小傾向を示し、覚せい剤事犯者が固定化し(何回も覚せい剤で裁判を受けた者を「頻回再犯者」といいます。)、新たな乱用者が減ったことにより、検挙者中に占める「再犯者率」が押し上げられる結果となったわけです。
このように、覚せい剤事犯者中の「再犯者率」が上昇し続けていることは、初犯者が減少し、覚せい剤事犯者が固定化してきたことを表しているのであって、再犯しやすさの度合いが高まっていることの表れではありません。

●では、あらためて「再犯率」とは
覚せい剤事犯の「再犯率」とは、覚せい剤取締法違反事件で有罪判決を受けた人のうち、その後、何らかの罪を犯した人の割合をいい、同じ覚せい剤事犯を繰り返した場合は、同種再犯ということになります。これを正確に知るには、実際に、罪を犯した人のその後を追跡調査しなければなりません。

覚せい剤事犯について、その後の犯罪歴を実際に追跡調査し、4年以内の再犯状況を調べた結果が、平成21年版の犯罪白書に掲載されています(下記参照A)。
この調査によると、覚せい剤取締法違反で裁判を受け、執行猶予の判決を受けて社会に戻った人のうち、ほぼ4人に1人(24.7%)が、4年以内に同じ覚せい剤事犯で再犯している、と報告されています。
画像

↑平成21年版犯罪白書 第7編「再犯防止策の充実」第3章窃盗・覚せい剤事犯に係る再犯の実態より転載

なお、この調査は、
・東京地方検察庁(本庁)と横浜地方検察庁(本庁)が処理した
・覚せい剤の乱用(単純所持と使用)事案のうち
・平成16年中に執行猶予判決を受けた者519人(男子388人 女子131人)について
再犯の有無を調査したものです。

そこでいう、再犯とは、
・執行猶予の判決を受けた後に行った犯罪で
・執行猶予を言い渡された日から4年以内に
・有罪判決を受けて、刑が確定したこと
をいいます。

●覚せい剤はやめられる
上記の調査は、たいへん厳しい現実を突き付けています。せっかく執行猶予という自力更生の機会を与えられながら、25%近くの人が再犯し、覚せい剤事件で裁判を受けているのです。ひとたび覚せい剤に深入りしてしまうと、簡単にはやめられないのです。

なお、戦後約60年間の犯歴などを分析した別の法務省の犯歴(70万人初犯者・再犯者混合犯歴)調査では、覚せい剤事犯の同一再犯率は29.1%となっています(平成19年版犯罪白書229頁)。

いっぽうこの調査は、再犯せずに4年間を過ごした人の方がはるかに多いということも示しています。
私は弁護士であり、少なくとも一度は薬物に関係した人を相手にしています(中には、故意がなくて不起訴や無罪になるケースもありますが。)から、相手に、薬物はやめられないといったことはありません。そして、じっさい、私の周辺には、一度は覚せい剤で有罪判決を受けたけれど、その後を無事に過ごしている人がたくさんいます。有名人の事件などから覚せい剤問題に社会の関心が集まると、そんな人たちが次々と電話をかけてきたりすることもよくある日常のひとコマです。

そうです、覚せい剤はやめられるのです。やめている人は大勢います。やめようとする人を受け入れてくれる医療機関や、支えてくれるグループもあります。

「覚せい剤はやめられない」と警告して、乱用をいましめることも大切ですが、現実に多数の乱用者がいるなかで、こうしたメッセージだけが過剰に繰り返されると、辛い思いをしながらやめ続けている元乱用者を社会の隅に追いやり、覚せい剤をやめようとする意欲をそいでしまうことにもなりかねません。

薬物依存者の回復を支援している人、治療にあたっている人、取締まりの最前線を担う人、そして私たち司法関係者・・・。覚せい剤問題と身近に関わっている人たちは、こんな時こそ、もっと大きな声で「覚せい剤はやめられる」と訴えるべきではないでしょうか。

ちなみに、学校教育の現場では、「薬物乱用者や薬物依存の患者の治療、更生、社会復帰のための情報」は薬物乱用防止教育に不適切な情報とされているようです(公衆衛生79巻4号254頁・医学書院2015年)。
*「公衆衛生」の引用箇所の記載に誤りがありましたので、訂正しました。ご指摘、ありがとうございます。

[参照]
@平成27年における薬物・銃器情勢(確定値)
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h27_yakujyuu_jousei.pdf
A平成21年版犯罪白書(該当箇所は233ページ)
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/56/nfm/mokuji.html

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
本当ですよ。厚労省HPには一度傷ついたA10神経系は元には戻らないといいつつ、スマープ外来治療の有効性とかもう厚労省の行っている事は矛盾だらけで全くエビデンスがないものばかり。止めてる人間なんてごまんといるのに。司法現場でのお話はやはり説得力がありますね。
なるみん
2016/03/31 00:02
ちなみに、学校教育の現場では、「薬物乱用者や薬物依存の患者の治療、更生、社会復帰のための情報」は薬物乱用防止教育に不適切な情報とされているようです(公衆衛生79巻4号257頁)

え〜これ本当ですか?閲覧できません。いやいや驚いたです
なるみん
2016/03/31 00:13
ちなみに、学校教育の現場では、「薬物乱用者や薬物依存の患者の治療、更生、社会復帰のための情報」は薬物乱用防止教育に不適切な情報とされているようです(公衆衛生79巻4号257頁)



危険ドラッグの流通実態の把握と
流通予測
花 尻 (木 倉) 瑠 理

のPDfの部分ですか?解説お願いいたします
なるみん
2016/03/31 01:17
なるみん さん
「公衆衛生」は医学書院の発行する雑誌です。
小森 榮
2016/04/02 06:40
覚せい剤の宣伝か?
執行猶予中に25パーセントの確率で再犯して捕まるなんて異常すぎる。その人たちがやめられるかどうかが問題だ。
気取ろうや
2016/04/06 20:56

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