弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 中高年が覚せい剤に魅入られるとき、その1

<<   作成日時 : 2016/02/04 23:26   >>

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日本人の心を沸かせてくれた、偉大な野球選手が覚せい剤で逮捕されたニュースで、衝撃を受けた方も多いでしょう。
輝かしい人生を歩み、円熟の年代になって、なぜ覚せい剤などに手を染めるのか、不思議な気もします。

でも、私にとっては、この大スターの姿が、覚せい剤事件を通じて出会った、多くの中高年の人たちと重なって見えてしまいます。
私は近年、分別盛りの人たちが、たかが覚せい剤のために、家庭も仕事も、社会的な立場さえも投げ打ってしまう姿を頻繁にみてきました。最近、覚せい剤事件の検挙者のなかで、中高年層が占める割合がどんどん増えているのです。
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↑覚せい剤事犯県境者の年齢層
警察庁「平成26年の薬物銃器情勢」および同資料の過去年版のデータに基づいて、筆者がグラフ化したもの

中高年の覚せい剤事犯者の多くは、若いときから覚せい剤を使い、何度か逮捕され、服役もして、それでもまだ覚せい剤と縁が切れない人たちですが、その中に少数ながら、中高年になって、人生で最初の逮捕に遭遇する人たちもいます。
それまで着実に生きてきた人が、人生の折り返し点まで来て、覚せい剤事件を起こすに至ったケースでは、その背景に、中高年の辛さ、生きにくさが垣間見えることが多いものです。

会社の中核として、一家の主として、責任が重くなるいっぽう、体力や気力に陰りが見え始める40〜50代の時期。若い頃なら乗り切れたはずの難局が、中高年になった今では果てしない困難に見えてしまうこともあります。そんなとき、心の隙間に覚せい剤が入り込んでしまうのです。きっかけとなったのは、会社内の異動、転職、新規事業の負担、業務不振、自営業者では資金難など。

しばらくの間、覚せい剤は、折れそうになった心を奮い立たせ、すり減った心身に開放感をもたらしてくれるように見えましたが、間もなく、彼らの心だけでなく、生活さえも変え始めます。
薬効がきれた途端に襲われる苛立ちや、異常なまでの不機嫌、わけもなく増大する猜疑心、不安。活力をつけてくれるはずの覚せい剤が、いつの間にか、状況をもっと悪くしてしまうのです。

私が出会った人たちの話をしましょう。しかし、私が仕事で手掛けたケースを披露するわけにいかないので、ここで紹介するのは、良く似た複数の事例をまとめ、多少の脚色も加えた仮想事例です。

●転職のストレスが引き金になったAさんの場合
50代のAさんは、それまで勤めた大手会社の業務縮小のため、中堅企業に転職したことで、生活が一変しました。管理職とはいえ、新規顧客の開拓に苦労し、連日の残業で疲れがたまり、不眠に悩むようになっていました。また、ボーナスが減額したことで、毎月の住宅ローン負担が増え、妻はパートの勤務時間を増やし、夫婦の間も気まずくなりました。
そんなとき頭をよぎったのは、バンド活動に熱中していた若い頃に、時々使ったことのあるマリファナでした。そういえば、行きつけの店のマスターは、どうやらマリファナの愛好者らしいと思いつき、冗談半分で話してみると、意外にすんなり入手先の電話番号を教えてもらうことができました。

紹介された相手に何度か会い、大麻を買った後、ふと「最近、気力がなくなって」と口にしたところ、相手の密売人が勧めてきたのが覚せい剤でした。Aさんは、これまで覚せい剤を使ったことがないので、最初はためらいましたが、相手はガラスパイプで使う方法を詳しく教えてくれ、パイプをおまけにつけてくれました。
帰路、Aさんは車を人気のない大きな駐車場の奥にとめ、車内で初めての覚せい剤を使いました。その後、覚せい剤を使うのはいつも深夜、同じように車を走らせて人気のない場所を探したり、ときには家族が寝静まった後、トイレでパイプを炙ることもありました。

最初は週末だけ、それもごく少量を使っていたAさんですが、間もなく使用回数も使用量も増え、1年ほど経った頃には常用するようになり、そして、薬効が切れた時の苛立ちや気分の落ち込みは、耐え難いほどになっていました。
この頃のAさんは、人が変わったようだったと妻は言います。ひどく不機嫌で、家族に怒鳴り声をあげ、夫婦の溝は限りなく深くなっていました。会社でも、浮いた存在だったのではないかと妻はみていました。

破局が訪れたのは、さらに1年ほど経ったときです。いつもの入手先の密売人から覚せい剤を買ってしばらく歩いたところで、いきなり警察官にとり囲まれました。実は、この密売人は、当人も気付かないまま警察の泳がせ捜査の対象になっていて、Aさんが買い受ける場面を警察官が遠巻きに監視していたのです。

●乗り切る活力がほしかったBさんの場合
40代後半のBさんは、小さいながらも会社の社長として、忙しく飛び回っていました。新しい取引先を開拓したため、営業回りや接待が深夜に及ぶことが増え、出張も多くなり、疲れが抜けない毎日でした。また、多忙な割に利益が出ないことも彼を苦しめていました。
ある日、出入りの業者と話しているときに「疲れる、すっきりしない」などともらしたら、相手は思わせぶりに声をひそめて「いいものがある」と言い始めました。この相手は、とかく薬物がらみの噂のある人物で、暗に覚せい剤を勧めているのだとピンときたものの、その場の勢いでその人物に「いいもの」を調達してくれるよう頼み、とりあえず10万円を渡しました。数日後、相手が届けてきたのは、透明袋入りの覚せい剤と注射器でした。

実は、Bさん自身も、若い頃には多少ヤンチャな生活をしたこともあり、仲間に勧められて覚せい剤を使ったこともありますが、とりたてて深入りすることもなく、やがて家庭を持ち、父の会社を継いだころには、昔のつきあいもすっかり切れて、その後は薬物とも無縁に過ごしていました。

およそ20年ぶりの覚せい剤は、Bさんにとって衝撃でした。ざわざわと身体を駆け抜ける感覚、そして一気にみなぎってくる気力と活力、あたかもピンボケの白黒映画がカラーに変わったように、周囲の世界がくっきりと感じられました。実をいうと、久々の覚せい剤は彼の身体には強すぎたようで、心臓がバクバクして胸の痛みも感じたのですが、そうした不快な記憶はすぐに薄れてしまいました。

Bさんが、覚せい剤にのめり込むのに時間はかかりませんでした。やがて、接待を口実に外泊することが多くなり、出張も増えました。社員や家族の目の届かないところで、覚せい剤を使っていたのです。
妻は、彼の変化を感じ取っていましたが、浮気を疑い、薬物とは考えてもみませんでした。怒りっぽくなり、妻に猜疑心いっぱいの目を向け、家を空けることが多くなっても、それでも浮気が原因だと思っていたのです。

しかし、突然、すべてが明らかになる日がやってきました。出張先で覚せい剤を使い、その数日を忙しく乗り切った後、車で会社へ戻る途中、耐えきれないほどのだるさを感じたBさんは、路肩に車をとめてひと眠りし始めました。覚せい剤の勢いで活動した後、その薬効が切れると、強い脱力感に襲われるのです。彼は気づかないまま深い眠りに落ち、そのまま10時間近くも眠り続けました。そんな様子を不審に思った近所の住人が「車の中で人が死んでる」と110番通報したのです。あわてて必死に言い訳するBさんでしたが、ベテラン警察官の目をごまかすことはできませんでした。

●基本的には人生の問題、でも薬物が絡むと複雑化する
ところで、Aさん、Bさんともに、若い頃に多少の薬物経験があったことにお気づきでしょうか。それまでの人生で、まったく薬物と接点のなかった人が、中高年になっていきなり覚せい剤を使い始めることは、めったにないでしょう。
若いころ、興味本位で薬物を使い始めたとしても、多くの人は、社会的に成熟するとともに、自然に薬物から遠ざかっています。実際、経験の浅いうちなら、対して苦労せずにやめることができるのです。

ところが、中高年になって薬物に手を伸ばすと、事情は大きく違ってきます。
まず、何か理由があって薬物を求めている点です。活力を求める人、気晴らしを求める人、ときには現実からの逃避を願う人、それぞれに切実な気持ちがあって覚せい剤を手にしています。それだけに、使い始めると、エスカレートしやすく、また断薬する困難もはるかに増します。

いっぽう、体力はすでに下降し始めているため、若い頃に比べて覚せい剤の影響を強く受けることになります。本人が感じている辛さやストレスに、薬物のもたらす弊害が絡み合って、暴力、暴言、不機嫌、身勝手・・・、そんな振る舞いが家族や周りの人たちを巻き込み、事態が急速に悪化し始めるのです。

家族は、わけがわからないまま苦しみ、傷つきます。
でも、家族こそ問題解決のキーマンなのです。次回は、妻の立場、家族の立場からこの問題を考えてみたいと思います。
家族の胸に、もしかしたら薬物かもしれない、そんな疑いが浮かんだら、すでに解決に一歩近づいているのです。

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まあさ
2016/02/20 16:37

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