弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 池袋暴走事件、懲役8年の判決

<<   作成日時 : 2016/01/15 23:50   >>

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東京地裁で審理されていた、危険ドラッグによる池袋暴走事件の被告人に、きょう午前、判決が言い渡されました。
2012年ころから相次いだ危険ドラッグ影響下での暴走事件のなかでも、被害の規模や社会的な反響の大きさから、ひときわ目をひく事件でしたが、適用された法律の差によって、裁判所が示した判決は、これまでの同種事件と比べて軽いものとなりました。

<ニュースから>*****
池袋暴走、男に懲役8年=危険ドラッグ7人死傷−東京地裁
東京・池袋で2014年6月、危険ドラッグを吸引して車を運転し、1人を死なせ6人にけがをさせたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪に問われたN被告(38)の判決が15日、東京地裁であった。安東章裁判長は「歩行者が行き交う道路で車を暴走させた。極めて危険で悪質な犯行だ」と述べ、懲役8年(求刑懲役10年)を言い渡した。
時事通信2016/01/15-11:52
*****

従来の同種事件は、旧刑法208条の2第1項前段が定める危険運転致死罪で処断されてきましたが、池袋暴走事件では、2014年5月に施行された自動車運転死傷行為処罰法の3条1項の危険運転致死傷罪が適用されています。
同法では、危険運転致死傷罪については、従前の刑法の規定を引き継いだ2条に加えて、要件を緩和した新たな条項が3条として新設されました。人を死亡させた場合の法定刑は、2条が旧刑法と同じ1年以上の有期懲役であるのに対し、3条では15年以下の懲役と定められています。

池袋暴走事件では、従来の裁判との均衡を求めるなら、より法定刑の重い2条を適用すべきところですが、新設の3条危険運転が適用され、その結果として、被告人に言い渡された刑の量定に開きが生じたというわけです。
この点に疑問をもたれる方もあるでしょうが、私はむしろ、ようやく本来あるべき形におさまったとみています。

同法2条の危険運転致死傷罪とは、旧刑法の規定をそのまま移行したもので、「正常な運転が困難な状態にある」ことを認識しながらあえて自動車を運転し、その結果、人を死傷させた場合について、「故意犯」として、傷害罪や傷害致死罪に準じた処罰を科すというものです。ここでいう「故意」とは、他人を死傷させるような事故を起こす危険性を意に介さず、運転したというものも含みます。
しかし、危険ドラッグのように市場に出回って日が浅い薬物の場合、基本的な薬理作用や体内での代謝なども解明されていないなかで、被告人の故意を認定するのは、相当に困難なことです。

これに対して、新設された3条危険運転は、危険運転致死傷罪で要求されている危険性の認識の立証程度を緩和し、「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とその認識で足りるとしています。また、運転開始当初には薬理作用がまだ発現していない場合でも、将来の走行中に危険性がある状態になり得る具体的なおそれがあり、そのような認識があれば、故意を認めることができるとされています。
これまでの同種事件で認定を困難にしていた要素が、この条項ではかなり整理されることになります。

これまでの事件の判決に目を通して、私はずっと、この様に不確かな立証で、被告人の責任を認めていいのだろうかという疑問をもってきました。薬物影響による危険運転致死傷事件として、本来的に要求されている要件を十分に満たしているとは言い切れない状態で、いささか無理な認定をしてきたように感じられるのです。
たしかに、危険ドラッグを使用して自動車を運転するなど、社会通念としては決して許されないことですが、社会的な非難が強いという理由で、刑事裁判において認定の基準を緩めるようなことは、あってはならないと思います。

その意味では、この池袋暴走事件では、新たな3条1項の危険運転規定を適用することで認定の要件が緩和され、これまでの無理が解消されたといえるのではないでしょうか。判決書の発表が待たれます。

なお、当サイト内に関連記事があるので、ご参照ください。
@これまでの危険ドラッグによる危険運転致死事件の量刑について
 危険ドラッグ暴走による死亡事故、2事件の対比(2015/11/20)
 http://33765910.at.webry.info/201511/article_10.html
A自動車運転死傷行為処罰法の3条1項の危険運転致死傷罪について
 池袋暴走事件公判開始、新たな準危険運転条項で(2015/02/12 ) 
 http://33765910.at.webry.info/201502/article_4.html

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
>判決書の発表が待たれます。

つかぬことを伺いますが、この判決書が発表された場合、事件関係者でない人々がそれを閲覧するにはどういった方法があるのでしょうか?
ネットまたは郵送で取得できるサービスがあるのでしょうか?
それとも、その裁判所に出向かなければならないのでしょうか?
滅智蓮寺 熾
2016/01/16 04:45
「発表」という言葉は適切でなかったかもしれません。
裁判例として重要な判決については、裁判所のサイトに要旨が掲載されますが、本件のような地裁での1審の判決が掲載されることは、そう多くはありません。
私たちが判決の内容を知るために使うのは、法律の専門雑誌や、裁判例のデータベースなどで、いずれも民間のものです。
裁判そのものは公開ですが、一般人が裁判所を通じて判決書を入手することはできません。弁護士であっても、事件を担当していない弁護士は入手できません。
小森 榮
2016/01/16 15:28
お答えありがとうございました。
この暴走事件のような社会的に大きな話題になった事件であれば、メディアの報道によっておおよその判決を知ることができますが、例えばドラッグ業者の指定薬物密輸(あるいは意図しない混入)事件のようなマイナーな事件では、逮捕は報じられても判決は報じられないことが多く、私のような「業界に参入してみたい」と考えている者にとってはやきもきさせられていました。

民間のデータベースというと、例えば第一法規の「https://www.d1-law.com/」とかでしょうか?
費用については問い合わせなければわからないようになっており、おそらく高いと思われますが、一般人にとっては判決文を入手するだけでも、なかなか苦労してしまいますね。
滅智蓮寺 熾
2016/01/19 14:16

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