弁護士小森榮の薬物問題ノート

アクセスカウンタ

zoom RSS マレーシアで日本人女性の死刑が確定、覚せい剤密輸事件

<<   作成日時 : 2015/10/17 05:04   >>

驚いた ブログ気持玉 5 / トラックバック 0 / コメント 2

2009年にマレーシアの国際空港に、覚せい剤3・5キロを密輸したとして、日本人女性が逮捕され、裁判が行われていました。1審、2審とも死刑の判決が出た後、日本の最高裁にあたる裁判所で審理が行われていましたが、10月15日に上告が棄却され、死刑判決が確定しました。

<ニュースから>*****
●マレーシア、邦人元看護師の死刑確定 覚せい剤持ち込む 「頼まれて荷物を運んだだけ」の主張通らず
大量の覚せい剤をマレーシアに持ち込んだとして、危険薬物不正取引の罪に問われた元看護師、竹内真理子被告(41)に対し、首都近郊プトラジャヤの連邦裁判所(最高裁)は15日、二審の死刑判決を支持し、上告を棄却した。同被告の死刑が確定した。関係者が明らかにした。
竹内被告は「頼まれて荷物を運んだだけで、中身を知らなかった」と一審から無罪を主張していた。今後、マレーシア国王の恩赦を求めるとみられる。
二審判決によると、竹内被告は2009年10月、アラブ首長国連邦のドバイからクアラルンプール国際空港に到着した際、約3・5キロの覚せい剤を隠し持っていた。マレーシアでは一定量以上の薬物所持で有罪が確定した場合の法定刑は死刑。(共同)
産経ニュース2015.10.16 00:12
*****

今年5月には、インドネシアで、覚せい剤を密輸したとして逮捕された日本人男性に、終身刑が言い渡され、また6月には、中国で、覚せい剤を売買したとして死刑判決を受けた日本人男性に対して死刑が執行されました。
覚せい剤密輸に関係して、外国で逮捕され、日本人が死刑に直面することが増えてきたようです。
日本では、薬物犯罪に対して定められている最高刑は無期懲役ですが、世界では、薬物犯罪に対して死刑判決を言い渡し、その刑を執行している国があるという事実を、私たちは重く受け止めなくてはなりません。

●なぜ薬物犯罪に対する死刑を問題にするのか
世界の国の数は現在196か国ですが(日本が承認している国)、その7割以上にあたる140か国が死刑制度を廃止しています。
国際社会では、1976年に国連の世界人権規約の自由権規約(正式には「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、日本は1979年に批准)が発効しました。この規約は、第6条で、すべての人の生存権が法律によって保護され、何人も恣意的にその生命を奪われないと定め、死刑廃止に向けて世界のコンセンサスを形成してきました。
さて、ここで注目したいのはその第2項で、死刑を廃止していない国においては、死刑は「最も重大な犯罪についてのみ科することができる」としている点です。ここでいう「最も重大な犯罪」とは、少なくとも人の死という結果を伴う犯罪に限定されると理解されているので、経済的利益を目的として敢行される薬物犯罪は、この範疇に含まれないことになります。
人権の擁護をめざす国際機関や団体は、この世界人権規約の理念に基づいて、死刑廃止への大きな一歩として、まず、薬物犯罪に対する死刑の撤廃を掲げ、様々な活動を続けているのです。
なお、現在、薬物犯罪者に対して死刑が宣告され、実際に執行されている国のほとんどは国際人権規約を批准していませんが、中国は同条約の締結国です。

<市民的及び政治的権利に関する国際規約>*****
第6条
1 すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律によって保護される。何人も、恣意的にその生命を奪われない。
2 死刑を廃止していない国においては、死刑は、犯罪が行われた時に効力を有しており、かつ、この規約の規定及び集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約の規定に抵触しない法律により、最も重大な犯罪についてのみ科することができる。この刑罰は、権限のある裁判所が言い渡した確定判決によってのみ執行することができる。
*****

●問題となっている数か国
世界全体を見渡せば、薬物犯罪に対して、法律上の最高刑を死刑と定める国は比較的多く、国際人権団体の集計によると、2012年時点で33の国と地域に及んでいるといいます。しかしその多くは、現在では、薬物犯罪のみの被告人に対して、実際に死刑を科すことはありません。
米国や韓国のように、法律上は薬物犯罪に対する最高刑は死刑となっていますが、実際にはほとんど適用されたことがないという国もあります。フィリピンなど、すでに死刑を廃止した例もあります。また、法改正はしていないものの、事実上、死刑判決の宣告を停止している国や、死刑執行を見合わせている国も増えています。
いっぽう、現在も実際に薬物犯罪者に対して死刑判決を言い渡し、また一定数の死刑執行が行われている国が、いくつかあります。
国際人権団体の2015年資料には、
@中国、Aイラン、Bサウジアラビア、Cベトナム、Dマレーシア、Eインドネシア、Fシンガポール
の7か国が挙げられていますが、死刑に関する情報は秘密扱いされることが多いため確かな数字はわからず、とくに、薬物事犯者に対する死刑宣告がどの程度行われているかは把握されていないのが現状です。
大まかにいえば、中国、イランでは、現在も大量の死刑が行われ、薬物事犯での死刑も少なくないとみられています。
サウジアラビア、マレーシア、ベトナムでは、減少傾向にあるものの、現在も相当数の死刑判決が下され、そのなかには薬物事犯の被告人も含まれています。執行の状況はよくわかりません。
またインドネシアでは、しばらく停止状態になっていた死刑の執行が再開され、今年はすでに14人に対して死刑が執行されました。
画像

↑7か国での最近の死刑判決と執行の状況
下記参照A資料より転載

●薬物犯罪に死刑が導入された背景
上記であげた問題の7か国が、東南アジアと中東地域に集中していることにお気づきでしょうか。
このうち、東南アジア地域は、薬物の大生産地、黄金の三角地帯の影響を強く受けている地域ということができます。黄金の三角地帯と呼ばれるのは、ミャンマー、タイ、ラオスにまたがる山岳地帯で、古くから、あへんやヘロインが生産され、また近年では覚せい剤の大生産地にもなっています。
東南アジアでは、1970年代に、政治情勢の不安定化に対応するように、相次いで薬物犯罪に対する死刑が導入されてきました。たとえば、マレーシアとシンガポールで薬物犯罪にに対して死刑を科す規定が導入されたのは1975年ですが、これは、ベトナムではサイゴンが陥落し、カンボジアでポルポト政権が誕生し、インドシナ地域の政治情勢が極めて不安定になっていた時期であり、同時に、黄金の三角地帯では反政府武装勢力があへん取引への関与を強めていたころに当ります。(なお、マレーシアが、薬物取引罪に絶対的死刑を規定し、また取引に関する推定規定を設けたのは1983年のことです。)
この地域での紛争には、つねに麻薬取引をめぐるエピソードがつきまとってきました。麻薬取引による収益が反政府勢力の資金源となり、地域の政治情勢を揺るがす大きな脅威となっていたのです。東南アジア全体が動乱に巻き込まれた1970年代、麻薬取引に対して神経を尖らせた各国政府は、次々と、薬物犯罪に対する刑を引き上げ、最高刑を死刑としました。
しかし、その後、この地域で政治情勢が安定するにつれ、死刑を抑制する動きが現れてきました。ミャンマーは事実上死刑の執行を停止しており、タイでは薬物犯罪に対する死刑判決はごく少数にとどまり、近年は死刑執行が行われていません。
この地域では、薬物犯罪に対して死刑が科されているのは、極論すれば、過去の不安定な政治状況の後遺症ということもできるでしょう。問題国家に挙げられた各国でも、政治情勢も安定し、経済的な成長が加速しているなかで、人権意識の高まりとともに、死刑制度見直しも動き出しているといいます。シンガポールでは2012年に、運び屋に対して従来の絶対的死刑に代えて終身刑の選択を可能にする改正が行われました。この改正は、良く似た法律を持つマレーシアにも影響を及ぼし、近年では、絶対的死刑の見直しが議論されることも増えているようです。
その反面、インドネシアでは、前述したように、しばらく停止状態だった死刑執行が再開されましたが、支持基盤の弱い大統領が「薬物に厳しい」姿勢を示して国民の支持を得ようとしたのだろうという見方もされています。

いっぽう、中東地域の場合は、また別の事情があります。
中東地域は、アフガニスタンとパキスタンにまたがる、黄金の三日月地帯と呼ばれるあへん生産地の影響を強く受けていて、この地域では薬物犯罪への対処が重要な政治課題のひとつになっています。とはいえ、中東の薬物問題について私はまったく勉強不足で、薬物犯罪に対して死刑が導入された経緯や、法制度について、見解を述べることはとてもできません。
とりあえずはっきり言えるのは、問題国家として名指しされているイランとサウジアラビアでは、現在の不安定状況が死刑の執行を加速しているということです。薬物犯罪の名のもとに大量の死刑執行が行われているのです。
また、両国での死刑の執行方法には、国際社会から強い批判が集まっています。サウジアラビアでは、斬首刑やむち打ちといった残酷な刑が行われており、イランでは絞首による執行が公開で行われているのです。さらに、公正な裁判手続が行われているのかといった、本質的な問題についても、重大な疑惑が投げかけられています。
しかし、中東諸国が全般にそのような状況にあるわけではありません。中東地域では、1980年代後半に薬物犯罪に対する死刑の導入が進みましたが(イランは1969年に導入)、バーレーン、オマーン、カタール、アラブ首長国連邦では、現在も法律上では薬物犯罪に対する最高刑は死刑とされていますが、死刑判決が下されることは少なく、死刑もほとんど行われていません。

[薬物犯罪と死刑の問題の参考資料]
@国際人権団体による詳細なレポート・2012年版
International Harm Reduction Association, The Death Penalty for Drug O¬ffences: Global Overview 2012 ―Tipping The Scales for Abolition
http://www.ihra.net/contents/1290
A国際人権団体による概要レポート・2015年版
World Coalition Against the Death Penalty, DEATH PENALTY AND DRUG CRIMES―Detailed Factsheet, 2015
http://www.worldcoalition.org/media/resourcecenter/EN_WD2015_Factsheet.pdf
Bマレーシアの状況に関するサイト内過去記事
マレーシア|薬物密輸と死刑の問題5(2010/05/24)
http://33765910.at.webry.info/201005/article_22.html
マレーシア続|薬物密輸と死刑の問題6(2010/05/25)
http://33765910.at.webry.info/201005/article_23.html

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 5
驚いた 驚いた
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス
かわいい

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
悪しきポピュリズム政治としてのドラッグ狩りが日本では行われた。まったくと言っていいほど、国民をドラッグから保護するという観点ではない。
アルコールとテレビで国民を麻痺させる愚民政治を続けるこの国に未来はない。
m
2015/10/17 07:36

これら国々での薬物事案刑が厳しい理由の一つに、宗教との関わりが大きいと思われます。

特に戒律が厳しいイスラム教国は、生活が宗教活動を中心に営まれてます。

宗教活動を永久に阻害する可能性がある薬物は、宗教にとって最大に許せない悪であり、そして教徒達の天敵だと思います。

実際にイスラム教圏で彼らと衣食住を共に過ごすと、その信仰に対する愛情が素直であるとつくづく実感します。
イスラム教圏の薬物事案に対しては、今後も厳しい条件が続くと推察します。


ところで、アジア新興国での違法品売買に関して、ある特別な決まりごとの様な事象が起こってます。

違法品売買時に売買者のどちらかが、地元の非番警察官へ売買情報をリーク。
そして制服を着用した非番警察官が、違法品を売買した人物を恫喝、多額の金品を不法に要求します。

特に現地事情に不慣れで無防備な日本人は、彼らにとっては格好のターゲットです。


神流美 王井門
2015/10/19 00:06

コメントする help

ニックネーム
本 文
マレーシアで日本人女性の死刑が確定、覚せい剤密輸事件 弁護士小森榮の薬物問題ノート/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる