弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 医師による肥満症治療薬の不正流通|向精神薬問題

<<   作成日時 : 2015/10/28 03:42   >>

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東京の開業医が、向精神薬を大量に不正販売したとして、逮捕されました。不正販売されたのは、肥満患者の治療に使われるマジンドール(商品名サノレックス)、第3種向精神薬として規制されている医薬品です。

<ニュースから>*****
●「やせ薬」中国人らに440万で販売、医師逮捕
「やせ薬」と呼ばれる向精神薬を不正に販売したとして、関東信越厚生局麻薬取締部が東京・六本木の「アーバンライフクリニック」医師・S容疑者(57)を麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的譲渡)容疑で逮捕していたことがわかった。
逮捕は今月6日。
同部幹部によると、S容疑者は7月13日頃、向精神薬の「マジンドール」約1万8000錠を、処方せずに、中国人と日本人の男女3人に計約440万円で販売した疑い。「金もうけのためにやった」と容疑を認めているという。
マジンドールは、肥満患者に食欲抑制剤として処方される向精神薬。同部はS容疑者が昨年からマジンドールを大量購入し、中国人らに転売していたとみている。
読売新聞2015年10月26日 14時48分
*****

辛い食事制限や運動をしなくても、薬を飲むだけでダイエットできたら・・・。そんな願いをもつ人たちが熱い期待を寄せるのが、食欲抑制剤で、現在日本では、唯一マジンドールが認可されています。
錠剤を飲むだけで、食欲をおさえることができるのは、この成分が中枢神経系に働きかけて満腹感をもたらし、また摂取エネルギーの吸収を妨げ、エネルギー消費を高めるからです。少し詳しく言うと、摂食調節中枢に直接作用してその働きを抑制し、また神経終末に働きかけて神経伝達物質の再取り込みを阻害するというのが、この物質の作用なのです。これ・・・、覚せい剤の作用とよく似ていますね。そういえば、覚せい剤はとても作用の強い「やせグスリ」です。

いま日本で使われているマジンドール製剤、商品名サノレックスの添付文書をみると、その冒頭に、赤い文字で、「警告」が記載されています。
<添付文書より>*****
■警告
1.本剤の主要な薬理学的特性はアンフェタミン類と類似しており、本剤を投与する際は、依存性について留意すること。また、海外においては食欲抑制剤の多くで数週間以内に薬物耐性がみられるとの報告がある。
2.本剤の適用にあたっては、使用上の注意に留意し、用法・用量、効能・効果を厳守すること。
(下記参照@)
*****
マジンドール製剤は、肥満の治療に有効だけれど、覚せい剤と同じような性質をもち、依存性が強く、副作用として神経過敏や不安といった精神面での問題や頻脈、胸痛、血圧上昇など交感神経系の問題が報告されている点も、覚せい剤とよく似ています。つまり、医師の監督の下で、注意深く使わなければならない薬=向精神薬なのです。

麻薬及び向精神薬取締法は、有用性が高い医薬品のうち、乱用された場合、麻薬や覚せい剤と同じような危険性をもっているものを「向精神薬」に指定し、その取扱いに様々な規定を設けています(下記参照A)。
現在、80種の物質(成分)が「向精神薬」に指定されていますが、これら成分を含む医薬品は、医師の処方によらなければ入手することはできません。
また医師は、これらの医薬品を患者が施用する目的(及び返品など法が定めた目的)以外で譲渡することはできません(50条の16)。この規定に違反して譲渡した場合には3年以下の懲役刑が科され、また、営利目的での違反に対しては、5年以下の懲役または5年以下の懲役及び100万円以下の罰金に処せられます(66条の4)。

今回のケースで、18,000錠という大量のサノレックスが、患者に対する処方としてではなく、特定の相手に譲渡されたのであれば、これは麻薬及び向精神薬取締法違反となるでしょう。
画像

↑厚生労働省「向精神薬事犯推移」より転載
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/gyousei-gaikyo/dl/torishimari_h25-04.pdf

ちなみに、向精神薬に関する違反は、近年では減少傾向にあり、2012年の検挙人員は59人、2013年では56人でした。

●自由診療という落とし穴
向精神薬は、その医療上の有効性と、健康に対するリスクのバランスを取りながら、患者の状態に応じて選択し、処方する薬です。そのために、様々な規制が設けられているわけです。
たとえば、マジンドールの場合、高度肥満症の治療に用いることが前提となっていて、普通体型の人に投与する場合には、健康保険が適用されません。

ところが、最近、「自由診療」をうたって、高度肥満の人以外にもマジンドール製剤を処方するというクリニックが少なくないのです。健康保険を使わない自由診療の場合、医師の判断による処方は制限されません。
しかし、「自由診療」の名の下で、マジンドール製剤を頻繁に処方している医師たちは、そのリスクをどこまで真剣に検討しているのでしょうか。そして、もしも患者に重大な副作用が現れた場合、その救済手段が用意されているのでしょうか。

たしかに、欧米では、中枢神経に作用する医薬品が多数認可され、様々な領域で実際に使われているのに比べ、日本では、規制の壁が厚いと感じている方もあるでしょう。でも、「自由診療」という形で、いきなり制限を取り払うことがむやみに広がって良いでしょうか。健康に対して一定のリスクを伴う向精神薬と「自由診療」の問題、ぜひとも、医学界での検討を進めてほしいと願います。

[参照]
@サノレックスの添付文書
http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00007131.pdf
A厚生労働省の手引書
「病院・診療所における向精神薬取扱いの手引」2012年版
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/kouseishinyaku_01.pdf

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内 容 ニックネーム/日時

ついに俗にいう「ポンクリ」に捜査の手が伸びましたね…
モディオダールの不正転売で逮捕された女性も最近いましたが、現在スマドラやヤセ薬の用途としても使われているような薬の規制も強まっていくのでしょうか?
その時に、本当にそのような薬が必要なマイノリティーを国が守ってくれるのでしょうか?
いずれにせよ、モディオダールや規制されているヤセ薬のような薬が通ってきた轍を踏まないような法整備を願うばかりです
通りすがり
2015/10/28 20:11
国家は自己責任と国民保護とを政府の都合で使い分けている。
国民の利益とリスクが最優先であって、国家の利益とリスクではないんです。憲法も、原発も、米軍基地問題も、社会保障も、嗜好性薬物も、国民の利益とリスクなのであって、大企業に依存する国家のものではない。
m
2015/10/30 05:20

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