弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 危険ドラッグ対策レビュー・14

<<   作成日時 : 2015/09/14 23:57   >>

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「危険ドラッグ対策レビュー・13」2015/09/12からの続きです。
前記事
http://33765910.at.webry.info/201509/article_5.html
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⑺ 危険性を増した流通製品
 法規制の進展が加速化するにつれ、それに対応して、危険ドラッグ成分も次々と切り替わってきました。
 現在では、医薬品開発技術の進化によって、ある物質の化学構造の細部を置換えた構造変化体を生み出すことが容易になっており、しかも中国などの新興国の化学産業界には、こうした物質を競って開発し、インターネットなどを通じて世界市場に提供するグループも活動しています。どれほど法規制を進めても、危険ドラッグ市場には、常に未規制の薬物がいくらでも供給されてくるという、イタチごっこの構図はいまだ解消されていません。そして、こうしたイタチごっこを繰り返した結果、市場に供給される製品は、さらに危険性を増幅させてきたように思われます。

@死亡事故は急増したのか 
 私たちは、危険ドラッグに関する報道が増えるにつれて、その甚大な健康被害の実態を目の当たりにするようになり、市場に出回る危険ドラッグが、急速にその効力を強めて、より危険性の高いものになってきているように感じたものです。
 たしかに、2014年中の「危険ドラッグの使用が原因と疑われる死亡事例」は112人と、驚くべき数字になっています。しかし、前項で述べたように、この数字は、社会的な関心の高まりに対応して、全国の警察が取り扱った事例のなかから危険ドラッグが関係していると疑われる事例をまとめ、警察庁が随時発表してきたものです。もしも、もっと早い時期に、危険ドラッグによる中毒や死亡事故に関心が向けられ、取扱い事例の掘り起しが行われていたなら、過去の死亡事故疑い事例は、もっと増えていたのかもしれません。
 2012、2013年の数字については疑問も残りますが、いずれにせよ、2014年の危険ドラッグ疑いの死亡事例は、それまで薬物乱用状況が比較的穏やかで、死亡事故が少なかったわが国では、異例というべき事態です。
 警察庁は、従来から、薬物乱用に起因する事故として、中毒死や自殺、交通事故による死亡などの数を集計していますが、2000年以降の推移をみると、最も多かったのは2000(平成12)年の103人(乱用死44人、自殺24人、交通事故35人)で[1]、2012年は87人、2013年は48人と[2]、比較的穏やかな状況が続いていました。それと比較すると、2014年の危険ドラッグによると疑われる死亡例の112人という数字が、いかに突出したものかわかります。
画像

↑薬物に起因する乱用死者数等の推移[3]

 その背景にあるのは、まず、危険ドラッグが大量に流通し、多くの使用者がいたという事実です。わが国の危険ドラッグ使用者は、およそ40万人と推計されています[4]。この数字は、2013年調査の薬物ごとの生涯経験率から導かれたものですが、戦後70年にわたってわが国の乱用薬物第一位であり続けた覚せい剤使用者の約50万人に迫るもので、危険ドラッグがごく最近になって出現したことを考えれば、非常な勢いで広まったことがわかります。
 加えて、過量摂取(オーバードーズ)によって、重篤な中毒や死亡事故が起きやすいという、危険ドラッグ特有の危険性があります。その代表的なポイントをあげてみましょう。

Aとくに危惧される成分の出現
 危険ドラッグ成分として使われる化合物は、旧来から乱用されてきた代表的な薬物に似た作用をもつ合成薬物です。代表的な成分の合成カンナビノイドは、大麻中のΔ9‐THCと同じように人体のカンナビノイド受容体(CB1)に結合する性質をもつ合成薬物ですが、受容体への親和性が大麻中のΔ9‐THCよりはるかに強力なもの、つまりより強い薬理活性をもつものが、危険ドラッグ成分として広く使用されてきました。
 また、危険ドラッグ成分は、その化学構造の細部を置換えた構造類似体が続々と生み出され、法規制に対応する新たな未規制物質として流通してきました。ところが、こうした細部の置き換えを繰り返すうちに、予想を超えた薬理活性を有する物質が生まれることもあるのです。
 たとえば、2014年12月に指定薬物に指定されたMDMB-CHMINACAの危険性について、専門家は次のように指摘しています。
「近年流通する合成カンナビノイドは、標的部位であるCB1受容体に対し、大麻の活性成分Δ9‐テトラヒドロカンナビノール(Δ9‐THC)よりも強い親和性を有するものも多い。例えばΔ9‐THCは、カンナビノイドCB1受容体に対しKi値が41nMであることが報告されているが、代表的な合成カンナビノイドJWH-018(2012年8月に麻薬として規制)は9.0nM、・・・MDMB-CHMINACA は0.094nMである。測定条件が異なるため単純には比較できないが、MDMB-CHMINACAのカンナビノイドCB1受容体に対する親和性は、JWH-018の100倍、Δ9‐THCより455倍強いことになる[5]。」
 ここで取り上げたMDMB-CHMINACA は、2012年頃わが国の市場に現れたAB-FUBINACAを元に、次々と細部を置換えて生まれた一群の化合物のひとつです。元になったAB-FUBINACAにも相当に強力な薬理活性がありますが、細部の変形を繰り返す過程で、その約10倍といった超強力な活性を持つものが出現したというわけです。この差に気づかないまま、危険ドラッグ成分として調合したとすれば、とんでもなく危険な製品ができあがってしまいます。 

B複数成分が含まれる危険ドラッグ製品 
 日本の危険ドラッグを分析し、成分の特定にあたってきた国立衛生研究所の専門家は、流通している危険ドラッグ製品中に、何がどれだけ含まれているか不明であると指摘しています。
 2013年度に国立医薬品食品衛生研究所においてインターネットを介して試買した 427 製品を分析した結果、試買した製品の約 65% で 1 製品中から複数の化合物が検出され、8 化合物が検出された製品も存在しました。また、約 30% の製品において、薬効の異なる(例えば興奮と鎮静等)複数の成分が検出されたということです[6]。
 その結果を示したのが下の円グラフです。
画像


 また、英ウェールズ州で一般から提供された薬物の分析をしているウェディノス(WEDINOS)プロジェクトは、2014年の年次報告書で、1製品から複数の成分が検出される実態について、次のように報告しています[7]。
■ 流通している合成カンナビノイド含有製品を分析した結果、製品の80%が2種類以上の精神作用物質を含有しており、製品の45%は3種類以上を含有していた。
■ ある合成カンナビノイド含有製品からは、6種の合成カンナビノイド(BB-22, NNEI, AKB48 APINACA, 5F-PB-22, 5F-AKB48 and STS-135)が検出された
■ ある粉末状の製品からは、興奮系薬物など6種の成分(エチルフェニデート、メチオプロパミン、3−アミノインダン、エフェドリン、カフェイン、リドカイン)が検出された。
 たとえば、極めてよく似た化学構造をもつ、複数の類似物質を同時に摂取した場合、その作用は、幾何級数的に強まるといわれます。また、興奮系、抑制系、幻覚系といった、基本的な作用発現の仕組みが異なる成分を混合した製品では、実際に人が摂取した場合にどのような作用が現れるか予測がつきがたく、また中毒症状への対処も極めて困難になります。

C粗雑な調合
 2013年末ころから、危険ドラッグ製造業者の摘発が増え始めるとともに、こうしたグレーな仕事に手を染める人たちの実態も少しずつ明らかになってきました。わが国に流通する危険ドラッグの原料は、たいてい中国の化学会社が合成したもので、製造業者はインターネットを介して原料を輸入して、これを危険ドラッグとして調合します。混ぜる植物片には、安価な輸入香草などが使われます。
 製造場所はマンションの一室や作業小屋、用いる道具は、どこのホームセンターでも売っているボールやバットといいた家庭用品で、精密機械らしいものといえば小型の計量器くらいです。しかも製造業者のほとんどは化学の知識などない素人で、おそらく外国の文献を読むことも難しいでしょう。
 こんな人たちが、見よう見まねで原料を選び、調合しているのが、危険ドラッグなのです。1回調合するごとに、原料が異なる場合もあります。計量のムラやミス、混合の具合などで製品ごとに差もあるでしょう。
 最も恐ろしいのは、ごく基本的な知識を欠いているために、原料化合物ごとの特徴を把握しないまま、経験的に調合してしまうことです。上記のようなとくに強力な化合物や、基本的にごく少量で強い作用を生じる幻覚剤などを扱う際に、とんでもない過ちを犯してしまうことが起きかねません。実際の試買調査で、通常では考えられないような大量の幻覚系薬物が検出された例もあります。

D現実の危機的事態
 現実には、上記で挙げたような様々な要因が絡み合って、中毒事故の多発という現象が発生しているのでしょう。
 米国では、今年春以降、ハーブ型の危険ドラッグ製品による中毒が急増していることが報告されています。中毒事故に関係している危険ドラッグとして、複数の製品名があげられ、またその成分として、MAB-/AB-CHMINACA、 FUBINACA、FUB-PB-22、XLR11などの名が指摘されていますが[8]、まだその全体像は明らかになっていません。
 原因は何であれ、危険ドラッグによる中毒事故の集中発生という危機的状況は、今も現実に起きているのです。
画像
 
↑米中毒情報センターへの「合成大麻」問合せ件数[9]

<出典と注釈>
[1]警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課「平成17年の薬物・銃器情勢」
[2]警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課「平成25年の薬物・銃器情勢」
[3]前記注2
[4]和田清ら「飲酒・喫煙・くすりの使用についてのアンケート調査(2013年)― 平成25年度厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業) 分担研究報告書」
[5]花尻(木倉)瑠理「危険ドラッグの流通実態の把握と流通予測」公衆衛生vol.79, 4(2015年4月)
[6]花尻(木倉)瑠理「危険ドラッグの規制と流通実態について」薬剤学, 75 (2), 121-127 (2015)
[7] WEDINOS, Annual Report, 1st October 2013 - 30th September 2014
[8] Maryland Poison Center, TOX Tidbits, May 2015
[9]米中毒情報センター(AAPCC)Synthetic Marijuana情報ページ
http://www.aapcc.org/alerts/synthetic-marijuana/

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続きは「危険ドラッグ対策レビュー・15」へ
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重箱の隅を突くようで申し訳ないですが、別記事で指摘してあるように、9デルタ-THCのEC50 Ki値40.7nMとの比較であればJWH-018はCB1R=102nM、CB2R=133nMです。

MDMB-CHMINACAもCB1RのKiは0.9nMで、EC50とは書かれていないので、50%結合ではないと思われ、EC50でのKi値はもっと大きいはずです。

つまり、9デルタ-THCとMDMB-CHMINACAはCB1RのKi値では10倍程度の差です。
小次郎
2016/02/21 10:49

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