弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 危険ドラッグ対策レビュー・13

<<   作成日時 : 2015/09/12 15:26   >>

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「危険ドラッグ対策レビュー・12」2015/08/28からの続きです。
前記事
http://33765910.at.webry.info/201508/article_12.html
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⑹ 健康被害への対応
 わが国で危険ドラッグが広まり始めて以来、これら製品を使用した人たちによる、突飛で奇妙な行動は、様々な場面で注目されてきました。
 一般に、危険ドラッグ使用による急性中毒では、意識障害をともなうことが多く、また、興奮や幻覚妄想など多様な中枢神経系の症状、高体温や高血圧といった交感神経系の症状が観察されていましたが、実際に救急搬送される患者の症状は多様で、体系的な把握には困難がありました。
 
@臨床例蓄積の努力
 大阪府は、2012年5月から、医療機関の協力を得て、危険ドラッグの使用によると疑われる救急症例を取りまとめて発表してきました[1]。この集計では、患者の数や年齢層などとともに、初診時の患者の症状が数量データとして集積され、危険ドラッグ中毒によってもたらされる被害状況の理解を助けてくれました。集計は、現在も続けられていますが、危険ドラッグの流通量が減少した2015年では、救急症例の発生もごく限られた数になっています。
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↑患者の症状・大阪府「危険ドラッグの使用によると疑われる健康被害状況について」のデータに基づき、筆者がまとめたグラフ

 さらに、2013年ころからは、危険ドラッグ使用者の治療にあたる医療現場からの報告も増え、関連学会や学術誌上でも様々な発表が行われるようになってきました。
 たとえば、日本中毒学会と日本救急医学会が共同で行った多施設共同調査では、2006年1月〜2012年12月までの間の518症例が検討され、危険ドラッグによる急性中毒の実態について知る貴重な資料となっています[2]。主任研究者の上条吉人教授は、同研究に基づく論考において、危険ドラッグの使用後に救急搬送される患者の特徴を次のように報告しています[3]。
  ■ 初診時の症状で多かったのは、嘔吐、悪心、動悸など交感神経系の症状、不穏・興奮、不安・恐怖、錯乱など中枢神経系の症状だった。
  ■ 初診時には、多くの患者に頻呼吸、頻脈、高血圧、散瞳、高体温といった交感神経興奮症状および意識障害がみられた。患者の2.5%では40回/分以上の重度頻呼吸が、また7.2%では140回/分以上の重度頻脈が、2.6%の患者に体温38.5℃以上の重度高体温が、6.5%の患者にGCS(Glasgow Coma Scale)8以上の重度意識障害がみられた。
  ■ 初診時の身体症状としては、10.0%の患者に横紋筋融解症が、4.8%に腎機能障害がみられた。
 なお、この研究の対象となっている症例は、2010年(1例)、2011年(48例)、2012年(469例)となっていて、検出された成分にはこの時期の特徴もみられますが、ここで観察されている様々な症状は、とくにこの時期に限ったものではないと思われます。
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↑初診時の症状
上記注[3]論文に掲載された表を元に筆者が図表化

A依存症への対応
 危険ドラッグを使って急性中毒症状に見舞われた使用者の多くは、治療によって大事に至ることもなくやがて急性症状もおさまり、退院していきます。しかし、ひとたび退院した患者が、まもなく危険ドラッグの使用を再開し、再び救急搬送されるといったケースを報告する医師も少なくないのです。危険ドラッグの成分として出回る薬物のなかには、麻薬や覚せい剤と同じように強い依存性が確認されているものも多く、救急医療と連動した薬物依存治療の重要性がクローズアップされました。救急医療を受けた患者をスムーズに薬物依存症治療に導入し、治療を継続させる体制が、ぜひとも必要なのです。
 国立精神・神経医療研究センターなどの研究者による「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」の2014年調査は、危険ドラッグ流行を受けて、精神科を受診する薬物使用者が急増している実態を浮かび上がらせました[4]。同調査によると、患者が主に使用する薬物として、第一位の覚せい剤に次いで、危険ドラッグは第二位にあげられています。主な使用薬物が危険ドラッグであった355症例について、ICD-10に基づく診断分類をみると、75.5%が依存症候群と診断されていて、その割合は、主な使用薬物が覚せい剤のグループよりむしろ高率を示しています。危険ドラッグは、覚せい剤に勝るとも劣らない依存性や精神病を引き起こす危険性を秘めていることが示唆されました。
 ところが調査結果はまた、治療・回復のための社会資源の利用が限られている現状も示しています。危険ドラッグ使用者のうち、治療・回復施設を利用したことのある割合は、医療機関などの依存症治療プログラム(38.5%)、自助グループ(32.4%)、民間リハビリ施設(22.2%)でした。
 当時の毎日新聞記事は、「再乱用防止のためにも治療体制の整備は喫緊の課題だ。プログラムは近年少しずつ広がっているが、危険ドラッグの乱用などによる患者の急増に追いついていない」という研究責任者の言葉を伝えています[5]。調査結果では、危険ドラッグ使用者のうち4割弱が依存症治療プログラムを受講していますが、そもそもこの調査では治療プログラムを提供する専門施設からの症例報告が多いことを考慮すれば、実態はこの数字を下回っている可能性があるといいます。
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↑主たる薬物1年以内使用者(覚せい剤・危険ドラッグ・処方薬)における社会資源や福祉制度利用状況の比較)
松本ら2014調査報告書(注[4])121pより転載

B治療・相談体制の拡充
 危険ドラッグ問題の拡大とともに、薬物問題に関する治療・相談を求める社会的なニーズも急速に高まりました。
 厚生労働省は、薬物問題の相談先として、全国の都道府県に69か所設けられている精神保健福祉センターを掲げていますが、同センターへの薬物相談は、2010年には3714人であったものが、危険ドラッグが問題になり始めた2012年には5,717人、2013年には6,201人と急増しています[6]。 
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↑アルコール、薬物の相談件数
厚生労働省資料より転載[7]

 薬物依存の専門治療を行う医療機関では、従来は、薬物関連患者のほとんどが覚せい剤使用者だったのですが、ここでも危険ドラッグ患者の急増がみられるようになりました。
 たとえば、神奈川県立精神医療センターには、2012年以降、年間100件を超える危険ドラッグについての電話相談が寄せられ、危険ドラッグによる初診患者が2012年は100名、2013年には141名になったといいます[8]。また、埼玉県立精神医療センターでも、2013年度では、新規外来患者数、救急病棟入院患者数、依存症病棟入院患者数の全てで、危険ドラッグ患者が覚せい剤患者を上回ったといいます[9]。
 しかし、薬物依存症に対して専門的な対応が可能な機関は、限られているのが現実です。この時期には、悩みや不安を抱える当事者や家族が、相談先を探しあぐねて、私のところへコンタクトしてくることもしばしばありました。
 厚生労働省が、危険ドラッグへの具体的な相談・治療体制の拡充策を表明したのは、2014年下期になってからでした。折から同省は、再犯防止策の取り組みのなかで、薬物依存者に対する相談・治療の体制整備が図っている途上で[10]、精神保健福祉センターや医療機関などに対して薬物依存症の治療プログラムを試験的に導入してきましたが、危険ドラッグ乱用の拡大に対応して、全国69か所の精神保健福祉センターに治療プログラムを導入することを決めたと報じられました。

<当時の新聞報道から>*****
●<厚労省>脱薬物依存を支援…全国で治療プログラム導入へ
 危険ドラッグが原因の暴走運転が相次ぐなど薬物乱用問題が深刻化していることを受け、厚生労働省は薬物依存症からの回復に効果がある「認知行動療法」に基づく再乱用防止プログラムを全国すべての精神保健福祉センターに一斉導入する方針を決めた。2015年度予算の概算要求に専門職員の人件費や研修費約1億4000万円を盛り込んだ。
・・・プログラムは、平易なワークブックを使い▽薬物やアルコールへの依存がなぜ危険なのか▽再び使ってしまう「引き金」は何か▽どうすれば再使用の欲求を断ち切れるか―などを集団で学ぶ。
 厚労省によると、各センターが提供するプログラムは16回の講義で1回のコースが修了するワークブックを使う。1回2時間の講義を週2回実施。各センターで年間3〜6コースの開催を想定している。薬物とアルコールの依存症者が対象で、センターへの相談者らに参加を促す。1回のコースの受講者は10〜15人(以下省略)。
毎日新聞 2014年9月21日(日)21時47分配信
***** 
 厚生労働省は、治療プログラムの導入促進策の受け皿として、新規事業の費用を助成する制度を設け、またプログラムの運営にあたる専門スタッフの研修制度なども整えてスタートしたのですが、助成制度を利用して新たに治療プログラムを導入する拠点は少数に限られることになりそうです。2015年8月末、毎日新聞は、導入拠点となる精神保健福祉センターに対してアンケートを行ったところ、助成制度に申請すると回答したのは、わずか5施設にとどまったと報じました[11]。
 ようやく動き始めた、危険ドラッグ使用者を視野に入れた治療・相談体制づくりですが、まだまだ道は遠いのかもしれません。
 
<出典と注釈>
[1] 大阪府「危険ドラッグの使用によると疑われる健康被害状況について」http://www.pref.osaka.lg.jp/yakumu/ihoudrug/idorakenkouhigai.html
[2] KamijoY, st al, A Multicenter Retrospective Survey of Poisoning after Consumption of Products Containing Synthetic Chemicals in Japan. Internal Medicine Vol. 53 (2014) No. 21 p. 2439-2445
[3] 上条吉人「危険ドラッグ関連の救急搬送患者の特徴と課題」公衆衛生Vol.79 4、2015年4月
[4] 松本俊彦ら「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査―平成26年度厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業)分担研究報告書」
[5] 毎日新聞「薬物乱用:専門治療4割 精神科受診は過去最多 厚労省調査」2014年4月14日
[6] 厚生労働省「平成25年度衛生行政報告例の概況」及び過去年度の同資料より、精神保健福祉センターにおける相談延人員を参照
[7] 厚生労働省サイト内「依存症対策」ページより
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/soudankensuu.pdf
[8] 神奈川県教育委員会「『危険ドラッグ』教員用補助資料」
[9] 成瀬暢也「精神科臨床からみた危険ドラッグ乱用の現状と課題」公衆衛生79巻4号(2015年4月)
[10] 厚生労働省は、2012年11月に「依存症者に対する医療及びその回復支援に関する検討会」を立ち上げ、翌年3月に報告書をまとめました。
[11] 毎日新聞「<薬物依存症>増えぬ治療拠点…精保センター、助成申請1割」2015年8月29日

*****
続きは「危険ドラッグレビュー・14」へ
http://33765910.at.webry.info/201509/article_5.html

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内 容 ニックネーム/日時

2014年夏頃から、舌下で吸収する、新しいスタイルの白い網袋入りニコチンを、JTが近畿圏で販売開始しました。

慣れないうちは長時間舌下に挟むと、強烈な作用が有るそうです。

特に近畿圏は訪日欧米観光客が増加しており、路上喫煙者抑制対策も兼ねた、企画商品の先行発売かと思われました。


しかし、この商品は首都圏では、未だに発売されておりません。 都区内のタバコ屋店主も、この商品の存在を殆ど知りません。


発売されない様子から、近畿圏には何か薬物摂取に関し、ひょっとしたら特別な文化と差分が有るのでは?と想像してしまいました。
神流美 王井門
2015/09/13 02:03
訂正します。
正しくは発売時期は2013年夏頃でした。



神流美 王井門
2015/09/13 02:08

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