弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 危険ドラッグ対策レビュー・12

<<   作成日時 : 2015/08/28 22:06   >>

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「危険ドラッグ対策レビュー・11」2015/08/10からの続きです。
前記事http://33765910.at.webry.info/201508/article_3.html
*****

A死亡事故の実態究明
 危険ドラッグによるとみられる死亡事故の実態に、本格的に社会の目が向けられたのは、2014年になってからです。
 きっかけは、大阪府警が独自に行った調査でした。2014年4月、危険ドラッグに対する規制が強化されたことを受けて、大阪府警は、ホテルやマンションでの変死例について、危険ドラッグ使用の痕跡がないか徹底的に調査する取り組みを進めたところ、4〜6月の3か月間に、危険ドラッグとの関連が疑われる事例が9人にのぼったと発表しました[1]。なお、その後の発表によると、4〜7月末までの間に確認された死亡案件は14人になったということです。
 また、毎日新聞は、全国の警察本部などを対象に危険ドラッグの被害実態について独自調査をした結果、関係当局が統計を取り始めた11年から2014年6月末までで、危険ドラッグの使用が原因で死亡した疑いがある人は、少なくとも、7都府県の40人と報じました[2]。記事は、「統計を取っていない」などの理由で多くの警察本部が回答しなかったため、実際の数字はさらに増えるだろうとしています。
 警察庁もこの事態を重く見て、各都道府県警察に対し、死亡者の周辺から危険ドラッグが見つかったり、遺体の薬物検査で成分が検出されたりしたケースなどの報告を求め、集計が進められました。2014年11月の国会委員会では、政府参考人として出席した警察庁幹部は、2014年1月から10月末までに全国で99人が死亡したとみられると答弁しています[3]。
 改めて記録を掘り起こしてみたら、驚くような実態が浮かび上がってきたわけです。警察庁はその後も調査実態を続け、実態把握の進展に応じて結果を発表してきましたが、最終的に、危険ドラッグの使用が原因と疑われる死亡事例として、次のような数字になっています[4]。
■危険ドラッグの使用が原因と疑われる死亡事例(警察庁の発表による)
  2012年・・・ 8人
  2013年・・・ 9人
  2014年・・・112人
 なお、前述したように、日本では解剖や薬毒物検査が行われる例は限られていて、ここで取り上げた数は、発見時の状況などから危険ドラッグを使用しての死亡と疑われるケースです。

⑸実態把握の必要性

@中毒データから読み取るもの
 新種の薬物が急速に広まる場合、必ずといってよいほど、大量の急性中毒の発生が報告されるため、流行初期の動向を把握するために、救急医療や中毒死のデータは欠かせません。欧米では、新種の薬物が台頭した際には、対策を検討するための基礎資料として、公的機関による中毒報告や、監察医によって判定された中毒死のデータが参照されています。
 しかし、わが国では、これまで薬物関連の中毒事故や中毒死が注目されることは少なく、こうしたデータがきちんと収集される体制が整っていないままです。わが国は、欧米諸国に比べて薬物乱用の状況がそれほど深刻化していない状態が続いたことも、ごく基本的な体制の不備を許してきた背景となってきました。
 今次の危険ドラッグ流行に直面して、長い間、散発的に報道される限られた事例だけを頼りに、私たちは、日本の危険ドラッグの状況を考えてきたのですが、2014年秋になって、改めて実態が見直されてみると、日本の危険ドラッグ蔓延は、想像した以上に深刻な状況になっていたのだと知りました。 

A「ハートショット」と警戒情報
 2014年秋、危険ドラッグとして流通していた「ハートショット」に関係するとみられる中毒が多発し、死亡事故が相次いでいることが話題になりました。

<当時の報道から>*****
●2週間余りで9人死亡、強力な危険ドラッグ出回る
 危険ドラッグが原因で死亡したとみられる人が全国で相次いでいますが、先月中旬からの2週間余りで、9人が死亡したとみられる強力な危険ドラッグが出回っていることがわかりました。警察庁は、吸引すると死亡する可能性があるとして、警戒を強めています。
危険ドラッグの中でも特に危ないとみられるのが、この「ハートショット」です。警察庁は、危険ドラッグによる事件や事故が相次いだことから、全国の警察に危険ドラッグを吸引したことが原因で死亡したとみられるケースを報告するよう求めていました。
その結果、今年1月から先月末までに全国で74人が死亡したとみられることがわかりました。死亡した74人は、様々な種類の危険ドラッグを吸引したとみられますが、中でも際だって多かったのが、問題の危険ドラッグ「ハートショット」です。
 先月15日に埼玉県で死亡した男性をはじめ、今月1日までの17日間に、1都4県で9人が「ハートショット」を吸引して死亡したとみられることがわかりました。2日に1人が死亡している計算です(以下省略)。
TBS系(JNN) 2014年10月17日(金)12時5分配信
*****
画像

↑上記のTBSニュース画面から
TBS系(JNN) 10月17日(金)12時5分配信

 「ハートショット」による中毒事故の多発は、警察庁が危険ドラッグによる中毒事故の実態を見直すなかで、浮かび上がったものです。前述したように(5-⑸-@)、この時期に警察庁は、全国の警察に報告を求め、中毒事故の実態調査を進めていたのですが、その過程で、9月中旬からの2週間ほどの間に、各地でこの製品に関連した中毒が連続発生していたことがわかったといいます。
 しかし、異変の兆候は、9月中旬にすでに捉えられていたのです。札幌市内の販売店で危険ドラッグを購入した客に中毒事故が相次ぎ、9月11日から17日の6日間に、購入客12人が、吸引後に、交通事故を起こしたり、救急搬送され、一時は心肺停止になった例もあると伝えられました。9月19日付の毎日新聞記事は、販売店名とともに「ハートショット」の製品名を報じています[5]。
 このころまでには、少なくとも管轄の警察署内部では、この製品の危険性が把握されていたはずです。問題の製品が、この店で独自に調合された物でなければ、他の地域でも出回り、危険性が拡散しているはずだと考えるのが当然です。しかし、対策が取られることなく、この情報は埋没してしまいました。
 問題は、こうした局地的な情報を吸収し、管理する仕組みがないことです。薬務当局、警察、救急医療など、多様な機関に分散している情報をとりまとめ、動向を監視する体制がなければ、緊急対策を講じることなどできません。とりわけ、特定製品に関連すると疑われる中毒事故が多発した時には、まず大急ぎで、新たな被害の発生を食い止める措置を講じなければなりません。このケースのように、広い地域で販売されていた製品の場合は、できるだけ早く、ユーザーに直接届く危険情報を発信する必要があるのです。

B米国の中毒情報への対応
 米国では、一定の地域内で3日以上連続して複数の中毒事故が発生した場合、市や郡の保健当局や警察が対応協議を開始し、危険ドラッグによる中毒事故の大量発生として発表し、対応策がとられています。
 その一例として、ニューハンプシャー州が緊急事態を宣告したケースがあります[6]。同州では、危険ドラッグによる救急搬送が集中し、3日間で41人に達したことから、2014年8月、州知事が緊急事態を宣言し、危険ドラッグの撲滅に乗り出したと報じられました。
画像

↑知事による緊急事態宣言書面、米NH州(2014.8.14)
DECLARATION OF STATE OF EMERGENCY

 また、同じころ、ニューヨーク市でもハーブ型の危険ドラッグによる中毒事故の集中発生が起き、市当局が警戒情報を出すという事態が起きていました。2014年7月24日から26日までの3日間で15人が救急搬送されたのです。
 市保健局は、市民に警戒情報を発し、合成カンナビノイド製品使用の危険性を訴えるとともに、その販売を見かけた人は、警察に連絡するよう呼びかけました[7]。
 米国で、中毒事故の集中発生などの事態に対応して、即座に警戒情報を出して注意を呼びかけたり、販売店への指導・取締まりを行ったりという活動が可能なのは、日々変動している状況をリアルタイムに監視している体制があるからです。米国では、薬物使用による急性中毒の情報として中心的な役割を担っているのは、救急診療データ、中毒情報受信データ、の2種のデータシステムです。
 また、米連邦では、新たな種類の薬物に対して法規制の導入を検討する際に、通常、この2種のデータを参照して、危害の発生状況の確認が行われています。
なお、各データベースは長年運用されているものですが、近年の財政引き締めのなかで予算が削減され、一部では統廃合も進んでいるようです。
■救急診療データThe Drug Abuse Warning Network (DAWN)
 薬物使用に関連した救急診療のデータは、米連邦の物質乱用及び精神保健局(The Substance Abuse and Mental Health Services Administration :SAMHSA)に集められ、集計、管理されています。
 ここでは、全米の24時間体制の救急医療センターでの受診状況が、薬物の種類ごとに集計され、随時、最近の動向などが発表されます。2011年度までの集計が発表されていますが、合成カンナビノイド製品関連の救急診療が急増したことが報告されています[8]。
 なお、このデータベースは従来DAWN として運用されてきましたが、救急診療総合データベースに統合されるということです[9]。
■全米中毒情報データシステムNational Poisoning Data System(NPDS)
 全米中毒情報センター協会(AAPCC)と疾病対策センター(CDC)が管理する、中毒情報のデータベースがNPDSとして管理されています[10]。全米の中毒情報センターでは、軽度の中毒症状に対する治療法などのアドバイスを無料で24時間提供していて、このサービスの受信件数が、1時間ごとに自動集計されています。
 米国では2010年ころから危険ドラッグ使用が増え始め、中毒情報センターへのアクセスも急増したため、同センターは警戒情報を出し、毎月の受信件数を公表しています[11]。

<出典と注釈>
[1] NHK関西「法律で禁止後も大阪で9人死亡」06月27日 19時10分
[2] 毎日新聞「<危険ドラッグ>11年以降40人死亡 今年急増24人も」7月31日(木)8時10分配信
[3] 第187回国会、衆議院厚生労働委員会(2014年11月14日)での政府参考人(警察庁刑事局組織犯罪対策部長)の発言より
[4] 朝日新聞デジタル「危険ドラッグ関連死112人、摘発は過去最多840人」2015年3月5日14時05分
[5] 毎日新聞「危険ドラッグ:札幌のハーブ販売店 購入客1人が心肺停止」(2014年09月19日)
[6] ニューハンプシャー州政府のサイト内
http://www.governor.nh.gov/media/orders/documents/eo-2014-06.pdf
[7] ニューヨーク市サイト内http://www.nyc.gov/html/doh/html/pr2014/pr023-14.shtml
[8]Update: Drug-Related Emergency Department Visits Involving Synthetic Cannabinoids(October 16, 2014)
http://www.samhsa.gov/data/sites/default/files/SR-1378/SR-1378.pdf
[9] DAWNデータベースについては、SAMHSAサイト内に説明があります
http://www.samhsa.gov/data/emergency-department-data-dawn/about
[10] 全米中毒情報データシステムについては、AAPCCサイト内に説明があります
http://www.aapcc.org/data-system/
[11] 警戒情報と受信数の集計はAAPCCサイト内にあります
「合成大麻」アラートhttp://www.aapcc.org/alerts/synthetic-cannabinoids/
「バスソルト」アラートhttp://www.aapcc.org/alerts/bath-salts/

*****
続きは「危険ドラッグ対策レビュー13」へ
http://33765910.at.webry.info/201509/article_5.html

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ハートショット禍を多くのドラッグユーザーが知ったのは、今は無き「ハーブwiki」という体験談サイトの掲示板に、摂取して大変なことになったという報告が上がったのがきっかけだったと思います。
その人は生存したので報告を書けたのですが、その陰では死んでしまった人たちもいます。

この掲示板報告は、テレビなどが取り上げるよりずっと早い段階で、ユーザーに警告を与えてくれました。
ハートショットはカンナビノイド系なのに、なぜかある紹介サイトで「スパイラル(8月まで売られていた大人気の覚醒ハーブ)系のアッパーハーブ」という感じの紹介がなされていたこともあり、下手をすると、スパイラルが手に入らなくなって不満を抱えているアッパー系ハーブ愛好者が、この謳い文句につられてハートショットを購入し、スパイラルと同様にワンヒッターにぎっちり詰めて吸い込む、という行動をとる可能性が十分に考えられました。
私も、スパイラルがなくなって代用品を探したいという気持ちもあったので、同じ行動をとって犠牲者になっていた可能性もあります。

しかし、このようにユーザーにとっての命の恩人であるハーブwiki、アロマwikiの両サイトを、厚生労働省はサーバー会社に圧力を掛けて強制的に閉鎖させました(その後、一度復活しましたが)。
もし、この圧力がもう少し早い時期に行なわれていて、ハートショット禍の時にこの掲示板サイトが存在しなかったならば、死者は10倍以上になっていたとしてもおかしくないと思います。
むしろ、彼らにとっては「死者が大量に出た方が、危険ドラッグ規制の口実になる」という認識なのではないかとも思えますが……

小森先生は、この厚生労働省の行動をどう捉えますでしょうか?
滅智蓮寺 熾
2015/08/29 12:05

今年の夏、オアフ島ワイキキ中心街のアダルト店舗では、電子タバコ用Eリキッドの新製品銘柄が続々と増えていました。

昨年夏は1列程度の陳列でしたが、今年は3列です。

店主の説明では、最近の土産品として、空港手荷物検査で発見されやすいRUSHより、人気が出ているそうです。
詳しい含有量は記載されておりませんが、人気の高いEリキッドはTHC含有商品です。

この小瓶が日本へこっそりと持ち込まれているのではないかと、心配になりました。


神流美 王井門
2015/09/13 04:12

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