弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 危険ドラッグ対策レビュー・8

<<   作成日時 : 2015/07/22 15:33   >>

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その日ごとの出来事に煩わされて、「危険ドラッグ対策レビュー」が中断したままでしたが、
2か月ぶりに、再開します。

前記事「危険ドラッグ対策レビュー・7」 2015/05/15からの続きです。
http://33765910.at.webry.info/201505/article_4.html
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⑷ 迅速規制への取り組み
 世界の危険ドラッグ市場は、常に変化を続けています。法規制の進展に対応して、市場には次々と新たな薬物が供給され、流通する薬物はめまぐるしく世代交代を繰り返しているのです。
 新たに流通し始めた新種の薬物に対して、速やかに規制下におさめるには、法規制の導入にも迅速さが要求されます。危険ドラッグの流行に速やかに対処するために、各国では、様々な迅速化策がとられてきました。
 その代表的な手法が、米国や英国で行われている、暫定指定です。これは、新たな規制対象を指定するために要する科学的な検証や手続きの一部を先送りして、司法長官や大臣の命令によって暫定的に規制を開始しながら、一定の許容時間内に正式な検証や手続きを行い、正式に法規制の対象に加えるという制度です。この制度が「暫定」と呼ばれることから、とかく簡略な手続きを想像される向きもありますが、実際の手続きはかなり厳格なものです。
 いっぽう、危険ドラッグ対策に特化した規制制度を新たに創設して対応している例もあります。そのひとつがわが国の指定薬物制度で、ここでは、規制対象物質を新たに指定する際の要件を緩和し、手続きを簡略化した制度を設けることで、危険ドラッグの特性に合わせた、柔軟な対処が可能になっています。しかし、拙速、杜撰な規制導入になってしまっては困ります。
 法規制の導入を迅速化することは、危険ドラッグ対策の要です。しかし、そのために、指定の要件をどこまで緩和し、手続きをどこまで簡略化することができるのか・・・。各国はいま、その答えを求めて模索をしているところだといえるでしょう。

@米国の暫定指定
 米連邦の薬物規制法(Controlled Substances Act)には、公衆に対する差し迫った危険を回避するために、司法長官は、新たな物質をスケジュールT物質に暫定指定することができるとする規定があります[1]。暫定指定が発効すると、2年(1年の延長が可能)の間は、その物質はスケジュールT物質としての規制を受けるので、当局はその期限内に、その物質をスケジュールT物質として固定するために必要な手続きを行うことになります。
 米国では、市場で新たに確認された危険ドラッグ成分を迅速に規制下に置くために、この規定を活用して、スケジュールT物質への暫定規制が行われています。
■指定の要件
 法は、新たな物質をスケジュールに指定し、あるいは指定済みの物質をリストから削除するために検討すべき内容を、以下の8項目として挙げています。
  要件1・具体的または相対的な乱用の可能性
  要件2・薬理学的な作用に関する科学的な根拠(把握されているなら)
  要件3・当該薬物または物質に関する最新の科学的知見
  要件4・歴史および現在の乱用パターン
  要件5・乱用の範囲、継続性および重要度
  要件6・公衆保健に対する危険性(もしあるなら)
  要件7・精神的または身体的依存性の傾向
  要件8・現に規制されている物質の直接的な前駆体になりうるか
 緊急性を旨とする暫定指定においては、科学的な検証の多くは指定後に行うことになりますが、それでも上記8要件のうち4、5、6の3項目について検討しなければならないとされています。具体的には、麻薬取締局(DEA)が新たな物質の流通実態や危害の発生状況などをとりまとめて司法長官に進言し、暫定指定によって危害の拡大を防止する必要があると認めた場合は命令が公布されることになります。
■指定例
 2015年1月、米連邦はAB–CHMINACA、AB–PINACA、THJ–2201の3種の合成カンナビノイドを暫定スケジュールTに指定しましたが、この際には、2014年12月19日に指定する旨の告知が行われ(官報[2]及びDEAのサイト[3]で公告)、2015年1月30日に命令が公布され、同日発効となりました(官報 [4] 及びDEAのサイト[5] で公告)。
 下に示したのは、命令の公布を公告する官報の一部ですが、この公告では、暫定指定の背景や合成カンナビノイドについての説明に加え、暫定指定の要件とされている、歴史および現在の乱用パターン、乱用の範囲、継続性および重要度、公衆保健に対する危険性の3項目に関して、医療機関からの中毒事例報告、中毒情報へのアクセス数、各地の押収薬物からの検出報告数、といった各種データを引用して具体的な状況が報告されています。4ページ強にわたるこの公告を読めば、米国における合成カンナビノイド乱用の流れや、今回の指定対象物質のもたらす問題など、一通りのことが分かる内容になっています。
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↑2015年1月AB–PINACAなど合成カンナビノイド3種を暫定指定した際の官報

A英国の暫定クラス指定
 英国の薬物規制法(Misuse of Drugs Act 1971)は、乱用薬物をクラスA、クラスB、クラスCに分類して規制していますが、2011年、危険ドラッグ問題の拡大に対応して、新たに、暫定クラスが設けられました[6]。
 暫定クラスへの指定は、諮問委員会からの答申(あるいは進言)に基づいて、国務大臣が命令を発し、議会の承認を得るという形で行われます。
 暫定クラス命令が発効すると、当該薬物の輸入、輸出、製造、および供給は禁止されますが、単純所持は違法行為として処罰されることはありません。違反者に対しては、正式起訴の場合は最高14年までの拘禁刑および無制限の罰金を、略式手続では6月以下の拘禁刑および5千ポンド以下の罰金が科されます。暫定クラス薬物に対して、警察は捜索、押収することができます。
 暫定クラス命令の効力は、最長12か月に限られます(期限を最長24カ月に変更するための改正準備が進んでいるようです)。この制度は、あくまでも従来のクラス指定を補完するものであり、大臣命令によって暫定的に規制を導入しながら、政府は対象薬物をクラスA、B、Cのいずれかに指定する準備を進めなくてはならないのです。
■暫定クラス命令新設の目的
 従来の手続きによると、国内市場で確認された新たな薬物を規制対象とするためには、諮問員会による科学的な検証に要する時間が3から6か月、さらに議会の承認を得るために少なくとも2か月が必要とされてきました。英政府は、暫定命令を公布することによって、危険ドラッグ市場に対して明確なメッセージを発信し、取り締まり機関が速やかに行動を起こすことによって、新種の薬物が市場に定着することを阻止するために、この制度を導入すると説明しました[7]。
■指定の要件
 法は、本法によってすでに規制されていない物質について、諮問委員会から答申や進言があった場合に、国務大臣は暫定クラス命令を発することができるとしています[8]。
■指定例
 2015年4月、英国はメチルフェニデート(リタリン)系の5物質を暫定クラスに指定しましたが、指定までの流れは以下のようなものでした。
 2013年3月、薬物規制に関する諮問委員会は、諮問を受けていたメチルフェニデート系の5物質について、暫定クラス命令を発することが相当であると答申しました[9]。添付された報告書では、対象物質についての化学、薬理面での基本的な考察に加え、乱用の広がり、英国及びEUから報告された急性中毒事例(検死解剖での検出例を含む)、諸外国での規制状況などが報告されています。対象物質に関する科学的な試験データなどが含まれていない簡略なものですが、対象物質乱用によって発生している被害の実態が把握できる内容になっています。
 4月8日、答申を受けて、国務大臣は命令を公布、命令は内務省サイトで告示され[10]、4月10日に命令発効となりました。
画像
 
↑2015年4月、メチルフェニデート類似物質を暫定クラスに指定した際の命令文書[11]

B日本での迅速化の歩み
 日本が2007年に導入した指定薬物制度は、危険ドラッグに対する取締まり策として新設された制度です。
 新たな薬物の乱用が広がった場合、従前は、麻薬及び向精神薬取締法によって麻薬に指定して、取締まりが行われてきました。新たな物質を麻薬に指定する際には、法学・精神医学・薬学等の有識者から成る「依存性薬物検討会」において、対象となる物質の依存性や精神毒性、乱用の実態等の様々な観点から討議を行うとされており[12]、指定までに数年を要し、目まぐるしく変化する危険ドラッグの実態には対応できないことが問題となっていました。そのなかで、厚生労働省は「脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会」を立ち上げて検討を重ね、創設されたのが、この制度なのです。
 指定薬物とは、中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む。)を有する蓋然性が高く、かつ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物(医薬品医療機器法第2条第15項)とされています。ここでは、麻薬に指定する場合と比べて、要件が大幅に緩和されており、迅速な指定が可能です。また、とくに乱用実態の有無についての検討が必要とされていないことから、国内での乱用実態が確認されない段階でも、いわゆる未然防止のための指定も可能となっています。
 英国や米国のように、薬物規制の基本法例(日本の麻向法にあたる)の規制対象物質に追加する場合と異なり、日本では、危険ドラッグ対策に特化した制度を設けたことによって、きわめて柔軟に、そして迅速に、新たな物質を規制下の収めることが可能になっているのです。
 加えて、今次の危険ドラッグ流行への対応策として、次のようなことも行われました。
 ・基本骨格に基づく包括指定を導入[13]
 ・緊急指定の実施
 ・パブリックコメントの省略、周知期間の短縮などによって公示、施行期日を前倒し
 その結果、現在では、新たな物質の出現に対応して、きわめて迅速に規制がとられています。国際的な危険ドラッグ市場で新たに確認された物質に対して、日本では、概ね他国に先駆けて法規制が導入されているといってよいでしょう。
■指定の要件
 法は、指定薬物は、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定すると定めています[14]。
■検討事項
 国際的な視野でみると、日本の指定薬物制度は、指定のための要件が比較的ゆるやかで、しかも柔軟に規定されているという、いささか特殊な性格をもっているといえます。国際的な標準が確立している麻薬とは別な枠組みを設けたことで、このような特徴が生まれたものだと思います。
 現在までのところ、この特徴がうまく機能し、次々に危険ドラッグ市場に出現する構造類似物質に対して、わが国は柔軟に、そして迅速に対応することができているといえるでしょう。しかし、この柔軟さが暴走する事態が起きないよう監視し、歯止めをかける仕組みは用意されていません。たとえば、国内での流通が確認されていない物質に対してどこまで未然規制すべきか、また、どの程度の効力をもつ物質を規制対象とするのか、といったことについて、適時、検討し、指針を示すといった運用が望まれます。

<出典と注釈>
[1] Section 201(h) of the CSA, 21 U.S.C.811(h)
[2] Federal Register / Vol. 79, No. 244 / Friday, December 19, 2014 / Proposed Rules
[3] http://www.deadiversion.usdoj.gov/fed_regs/rules/2014/index.html
[4] Federal Register / Vol. 80, No. 20 / Friday, January 30, 2015 / Rules and Regulations
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2015-01-30/pdf/2015-01776.pdf
[5] 前注3
[6] Police Reform and Social Responsibility Act 2011
[7] Home Office,UK, Misuse of Drugs: Temporary Class Drugs
[8] Amendments of the Misuse of Drugs Act 1971, Section 2A and 2B
[9] Advisory Council on the Misuse of Drugs, Methylphenidate-based novel psychoactive substances: temporary class drug order report, 8 April 2015
[10] Circular 015/2015: temporary control of 5 methylphenidate-based NPS(8 April 2015)
https://www.gov.uk/government/publications/circular-0152015-temporary-control-of-5-methylphenidate-based-nps/circular-0152015-temporary-control-of-5-methylphenidate-based-nps
[11] http://www.legislation.gov.uk/uksi/2015/1027/pdfs/uksi_20151027_en.pdf
[12] 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課「麻薬等関係質疑応答集」2009年3月
[13] 2013年2月にナフトイルインドール骨格を有する合成カンナビノイド群に対する包括指定、同年12月にカチノン類に対する包括指定、2015年4月カチノン類に対する指定範囲の拡張が行われた
[14] 医薬品医療機器法第2条第15項

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続きは「危険ドラッグ対策レビュー・9」へ
http://33765910.at.webry.info/201507/article_11.html

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