弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS オキシコドン輸入事件、不起訴の判断はほんとうに公平なのか

<<   作成日時 : 2015/07/07 23:52   >>

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捜査中だった米国人女性によるオキシコドン輸入事件について、東京地検は、起訴猶予で釈放する方針だと伝えられました。

<ニュースから>*****
●トヨタ前役員、不起訴へ…「悪質性低い」と判断
トヨタ自動車前常務役員のJ.H.容疑者(55)が麻薬取締法違反(輸入)容疑で逮捕された事件で、東京地検は7日、同容疑者を勾留期限の8日までに釈放する方針を固めた。
不起訴(起訴猶予)とする見通し。地検は、同容疑者が輸入したオキシコドンは膝の痛みを止める目的で家族から送ってもらったものだったことなどから、悪質性は低いと判断したとみられる(以下省略)。
読売新聞 7月7日(火)14時30分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150707-00050130-yom-soci
*****

この一報が伝えられた直後から、私は、電話の前に座り続けで、何度か同じ質問を受け、同じように、いくらか煮え切れない返答を繰り返しながら、ずっと考え続けていました。問合せを受けるのは8日の午後だろうと思っていたからです。
これは、本当に公平な処分だと言い切れるのだろうか・・・。
もちろん、予測の範囲内の処分であり、決して不当とは思いませんが、指先に小さなトゲがささったような、すっきりしないものが残ります。取材を受けて、「落ち着きが悪いんだよね」と答えたら、「具体的な別の表現はありませんか」といわれ、しばし考え込んでしまったこともあります。

医療用麻薬の事件は限られているため、私も、不起訴処分の具体的な基準を把握しているわけではありません。でも、罪の重さとしては同じ程度の薬物事件で、これまで不起訴処分を得てきた多くの事例と重ね合わせてみると、このケースでは、不起訴を選択する条件が、もうひとつ足りないような気がしてなりません。あくまで、新聞報道で知った範囲でのことで、外部の目に触れない要素があったのかもしれませんが。

そういえば、つい先ごろ、同じオキシコドン21錠を米国から輸入した男性の判決公判が行われ、被告人に執行猶予付の有罪判決が言い渡されています。このケースと、どこが違っていたのでしょうか。

<7月1日のニュースから>*****
●麻薬密輸 男に有罪判決―東京地裁、オキシコドン21錠
米国から麻薬成分「オキシコドン」を含む錠剤21錠を密輸したとして、麻薬取締法違反(輸入)などの罪に問われた米国籍の男(34)の判決公判が30日、東京地裁であった。大川隆男裁判長は「量は少なくなく親和性、依存性は見過ごせない」として懲役1年6月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡した。
判決によると、男は今年4月に米国からオキシコドンを含む錠剤3.6グラムを国際宅配便で東京都内のホテルの自分宛てに送らせたが、日本国内の保税倉庫で税関職員に発見された。公判では起訴内容を認めた。
日本経済新聞2015年7月1日 
*****

一般に、薬物事件には、特有の明快さがあります。
罪の重さに直接つながる要因の第一は、薬物の量です。たとえば、所持した薬物の量は、通常使用の○回分と計算され、その量が多ければ犯情が重いとされるわけです。
そして、犯罪の立証過程も科学的であり、明快です。犯罪の客体である薬物は、合理的な疑いをさしはさむ余地のないレベルで科学的に鑑定されます。また、輸入事件であれば、その品物が日本の税関に到着するまでの経路が詳細に裏付けられています。
こうした明快さは、薬物事件の処理に高度な透明さと公平さをもたらしてきたと、私は考えています。

日本は、欧米諸国と比べ、薬物事件に対する処分はとても厳しい、しかし、その取扱いはあくまで公平であると、私はずっと信じてきましたし、政治家のコネなど口にする被疑者や被告人にそのような不明朗な扱いはないと断言してきました。
これまで、社会的な注目を集める有名人の事件では、検察官は、むしろ一般人の場合より厳しい対応をとることで、法の公平性をアピールしてきたとさえ、感じてきたのです。

しかし、今回の事件で、あくまでも公平な裁定が行われたと言い切れるのでしょうか。

辞職したことなど社会的制裁をうけたことはH容疑者に有利な事情です。裁判でも被告人に量刑上有利に考慮すべき事情として常に言及されています。
しかし、それだけで起訴を猶予する事情として十分なのか。
これまで、実に様々な人が、薬物事件で逮捕され、起訴されてきました。政治家、芸能人、実業家、公務員、教育者、医師・・・、薬物に関係するには、その是非は別にして、するなりの事情があったはずです。そして、多くの人たちが、薬物事件を起こしたことで社会的な立場を失い、家庭や生活基盤まで失うことも珍しくありません。なかには、このようなことで棒に振るには、あまりにも惜しい人生を歩んできた人もあります。
多くの人たちが、等しく、大きな社会的な制裁を受けてきたのです。

また、今回の処分では、「膝の痛みをやわらげるために父親から送ってもらった」ものだから「乱用する意図はなく」悪質性が低いとされているようです。しかし、父親に処方された薬を使用する意図があったのですから、その使用は処方した医師の意図に反することになるはずで(あるいは処方せんを要するとした法の意図を無視するもので)、法律的にも医学的にも乱用の意図があったということになるのではないでしょうか。乱用は娯楽的使用と同義語ではないはずです。

薬物事件で不起訴処分となるケースは少なくありませんが、その基準は分かりません。
私は毎年数件の担当事件が不起訴となり、今年も既に3件不起訴処分を得ていますが、そのいずれについても不起訴を確信しつつも、万が一起訴された場合に備えて保釈の準備をしていました。不起訴処分後でもその理由は明確ではありません。私たちが受け取る書面(不起訴処分告知書。刑事訴訟法第256条)には、「公訴を提起しない処分をしました。」と記載されているだけです。不起訴処分の際に考慮された事情は、通常、告知されません。
もちろん、不起訴となったケースでは、被疑者に有利な事情があり、それを積極的に訴えることを主眼に弁護方針を組み立てるので、処分の際に考慮された被疑者に有利な事情については、あるていど推測することはできます。ですから、不起訴処分の基準については、体系的ではないにしても、あるていどは理解しているつもりです。
また、検察庁には、一定に基準があるのでしょう。

私は弁護士ですから、その理由の有無を問わず、軽い処分がされることは大歓迎です。

しかし、この事件のようなケースでは、その事情を多少なりとも明らかにしなければならないのではないでしょうか。
新聞等で伝えられる程度の内容では、不起訴という結論はとても納得はできません。

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
起訴しないのは普通に、治療目的だからじゃないの?
依存してたり転売しようとしてたら、そりゃ有罪だと思うんだけど

乱用は娯楽的使用は違うけど
それは乱用が娯楽目的ではなくても依存してしまう場合があるから
「娯楽じゃねえよ、止めれないんだよ」みたいな事があるから
娯楽使用だけが違法ではなく乱用っていってるのではなくて?

おそらく親と体質も似るだろうし
「医者でもらった薬、これ効くから飲んでみてよ」みたいな
間抜けな話は日本でもあると思うんだけど
そう言うのも厳罰化すべきなんすかね?

本当に「軽い処分がされることは大歓迎です」なんですか?
違いますよね
とおりすがり
2015/07/08 13:59
私個人としては処方歴があった場合となかった場合で処分を変えてしかるべきだと思います。完全な自己使用と以前使用していた薬を再度使用することは質的に異なる行為です。
仮に元役員に処方歴があってもう片方になかったならまったく妥当な処分ではないですか?

仮にそのような事情があったとして、起訴猶予の場合にすべてのことを公開する権限が検察にあってすべてのことを公開する義務が被疑者にあるのでしょうか。真実が国民に公開されなかったとして、それは制度的に検察に裁量を認めたからであって、透明性を求めるなら全件起訴か大陪審制度を設けるべきであり、多少不透明さが残るのは制度的に予定されている事態でしょう。
むしろただの行政の一部に過ぎない警察・検察が適当に手をつけただけですべての情報が公開されるなんて言うほうがよっぽどおかしな社会だと思いませんか?

あともうひとつ、もしかしたら彼女の徹底抗戦を恐れたという可能性はありませんかね?
彼女は徹底して麻薬という認識はない、という主張を貫いていました。とすると裁判となった場合に幸福追求権や過度に広範な規制のラインで憲法訴訟に発展する可能性も十分ありえたと思います。この手の面倒なことを避けたかったのでは、ともちょっと思っています。
個人的に日本の薬物規制は余裕で過度に広範な規制だと思っているので勝算があるというといいすぎですが、それなりに難解な事件に発展する余地はあったのではないでしょうか。
少なくともグローバルスタンダードとは程遠い(アジア特有の?)薬物感が全世界に発信されたでしょうね。個人的には発信されてほしかったですが。
通りすがりその2
2015/07/08 15:06
麻薬を輸入したとの認識はない、と主張していたようなので故意なしと判断されたのでは? 麻取法の故意の成立には単なる事実の認識では足りず、麻取法によって禁止される違法有害な薬物のどれかであろう程度の認識(概括的故意)が必要というのが判例だっだと思いますが。

サバトラ
2015/07/08 16:41
彼女は勾留期間が長過ぎると思ってるんじゃないですか?日本の刑事訴訟法がおかしい、と思ってそう。
農家の息子
2015/07/08 20:52
有罪判勝→有罪判決
気分宛てに→(たぶん)自分宛てに
ですね。
滅智蓮寺 熾
2015/07/08 22:48
起訴前に優秀な弁護士を付ける。
弁護士が到着するまで何も話さない。
m
2015/07/12 06:51
トヨタ本社にまでガサ入れした世界的な大事件にした警察。お手柄税関職員?なわけねーだろう、アメリカの彼女あるいはトヨタをよく思わない勢力の肩入れがあったことは間違いがないが、それがばれるとヤバいのでリークしまくって、不起訴で逃げた検察の茶番劇


先生のインタビュー載ってましたよ。あれって本当に先生が話した話の1000分の1秒の言葉だと思います。いいように先生も最近メディアに利用されてますね
なるみん
2015/07/12 22:28
アメリカでのオピオイド系痛み止めの乱用は、思った以上に深刻なようですよ。素人考えでは、麻薬に指定された処方薬を簡単に他人に譲ることができる、つまり、簡単に処方される医療環境も問題なのだと感じます。
いやいや
2015/08/15 22:51

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