弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS オピオイド鎮痛薬が悪者なのではない

<<   作成日時 : 2015/07/05 22:00   >>

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成人病予備軍の私には欠かせない、月に1度の診察日、定例の診察を終えた後でO医師が、「新聞や雑誌では、オピオイド鎮痛剤がまるで悪者扱いですね」と、取り出したのは、日経メディカルに掲載された「トヨタ役員麻薬密輸報道が癌患者に与えた悲しみ」という記事です(下記参照@)。
一連のマスコミ報道で、いまアメリカで問題になっているオキシコドン乱用問題がクローズアップされ、悪者扱いされたことで、疼痛管理のためにオキシコドンを使っている患者さんが悲しい思いをされるのでは、と案じる内容です。

そういえば、私自身も、医療目的をはずれて乱用されるオキシコドンの問題に焦点を当てて、オピオイド鎮痛薬が医療分野で果たしている役割について、きちんと語ることがおろそかになっていました。
オピオイド鎮痛薬によって痛みから解放されている患者さん、そして多くの患者さんの疼痛管理にあたっておられる医療関係者の皆さん、今回の事件報道で嫌な思いをしておられる方に、お詫び申し上げます。

ここで、改めて「麻薬」とは何か、整理しておきたいと思います。
麻薬及び向精神薬取締法によって麻薬に指定されているのは、現在160物質ですが、そのなかには、
(ア) モルヒネやオキシコドンのように、現に医療用に使われているが、扱いを誤ると重大な危害につながり、また、医療目的をはずれて乱用されやすい性質を持っているため、「麻薬」として厳格な管理を義務付けているもの→医療用麻薬
(イ) ヘロインのように、当初は医療用に開発されたものの、弊害が大きいため現在は医療用に使われることはなく、もっぱら違法な乱用薬物として流通しているもの
(ウ) 近年「麻薬」に指定されたα-PVPのように、当初から乱用薬物として市場に登場し、その後「麻薬」に指定されて規制を受けているもの
・・・と、いろいろな性格の物質が含まれています。

「麻薬」というと、ヘロインやコカイン、MDMAなど乱用目的で製造され、流通している不法な薬物を思い浮かべることが多いため、「麻薬」=「悪いもの」と思い込んでしまう方もあるようですが、「麻薬」のなかには、医療に欠かせない重要な医薬品も含まれているのです。
でも、とくに日本では、医療用麻薬の管理が厳格に行われており、不正流通が問題になることもほとんどないので、医療用麻薬というカテゴリーがあることさえ、一般の方には、あまり知られていないのかもしれません。

今回話題になったオキシコドンは、医療用麻薬のなかでも有力なもののひとつで、医療現場でよく使われています。
WHO(世界保健機構)が「がんの痛みからの解放」を提唱して30年、日本でもようやく、患者さんの痛みを取り除くこと(疼痛緩和)が医療の重要な課題として、認識されるようになってきたと聞きます。
近年では、日本でも、オキシコドンなどのオピオイド鎮痛薬の使用もだいぶ増えてきましたが、欧米諸国と比べると、まだ少ないのが現状のようです。
画像

↑オキシコドン製造、消費上位国及び日本(2012年)
厚生労働省資料(下記参照A、p.28 )より転載

ところで、鎮痛薬について語るとき、私はいつも、ケシと人類の5千年以上にわたる関係に思いをはせてしまいます。古くは、シュメール人が紀元前3500年ころに遺した粘土板に、ケシの記述があるといいます。
それから5,500年たった今日でも、ケシからとれる多様なアルカロイドは、鎮咳薬や総合感冒薬から鎮痛薬まで、多くの医薬品の原料として活用されています。現在では、フェンタニルなど合成の鎮痛薬も開発され、実際に使われているのですが、それでも依然として、あへんを原料として幅広い医薬品が製造されており、製薬原料としてのあへん(またはけしがら抽出物)の需要は増え続けているのです。
画像

↑あへんを原料とする麻薬の製造工程(概要)
厚生労働省資料(下記参照A、p.18)より転載

でも、そのいっぽうでは、あへんやヘロインは近代以降の世界に、麻薬乱用という大きな問題を投げかけても来ました。
厚生労働省の資料によると、医薬品原料として正規に生産されるあへんは、世界全体で765トン(2012年)、ほかに、ケシの全草や成熟したケシの朔果(ケシ坊主)から作るけしがら濃縮液の生産量として721トン。これが世界の製薬をまかなう原料となっています(下記参照A、25-26ページ、インドで生産される医療用あへんについてはB)。
いっぽう、乱用目的で出回るヘロインなどを生み出すために密造されるあへんは、実に7,554トンに及ぶとみられています(2015年版世界薬物報告書、41ページ)。
かけがえのない医薬品であると同時に、乱用薬物としての顔も併せ持つ・・・麻薬とはなんとも不思議な存在です。

オピオイド鎮痛薬などかけがえのない医薬品が、乱用されることのないよう、その製造から流通、使用までしっかり管理しているのが、現行の制度です。
日本では、麻薬及び向精神薬取締法によって、「麻薬」として管理されていますが、世界の先進国のほとんどで、似たような制度が設けられ、同じような管理が行われています。
ただし、「麻薬」に対する管理の厳格さや、違反者への処分の実態には、国によってかなり違いもあるようです。

@日経メディカルの記事
廣橋猛の「二刀流の緩和ケア医」
トヨタ役員麻薬密輸報道が癌患者に与えた悲しみ
日経メディカル2015/07/02号

A医療用麻薬に関する資料
厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課「麻薬・覚醒剤行政の概況」(2015年1月)

Bインドの医療用けし栽培について
Central Bureau of Narcotics
http://cbn.nic.in/html/operationscbn.htm

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
α-PVPやLSD、MDMAは医学上「麻薬」には含まれない物であるが、法律では麻薬に指定されているという解説があるとよかったです。
本来の麻薬とは、鎮痛剤のことで、領域的にはオピオイドと重複する部分が多い用語です。
α-PVPはどう見ても覚醒剤なのですが、政府広報やマスメディアの報道では「麻薬」と呼ばれることが多く、一般人の理解を妨げる原因となってしまいます。
滅智蓮寺 熾
2015/07/07 08:17
貴方の説明では余計混乱が生じますよ。じゃLSDは何になるんですか?覚醒剤だって覚醒の作用のある物質という広義の定義ではカフェインからコカインまで含まれてしまいますが、普通の文脈での解釈はメタンフェタミンもしくはアンフェタミンになります。毎度無意味な知識をひけらかすような指摘はよした方がいいですよ。それでなくても貴方の評判は相当悪いのですから。
MD撲滅委員会
2016/10/29 01:23
滅智蓮寺 熾 氏さん

MDMA(エクスタシー)の臨床試験がFDAに認められたそうですね。
Q太郎
2016/12/06 21:04

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