弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 薬物影響下での事件と責任能力|危険ドラッグ

<<   作成日時 : 2015/03/12 14:53   >>

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横須賀で起きた両親殺害事件と、東京世田谷区の隣人切り付け事件、危険ドラッグの影響が慎重に検討されている2つの事件で、精神鑑定のために中断していた捜査活動が、再開されています。偶然同じ日に、両事件の続報がありました。

<ニュースから>*****
●両親殺害容疑で起訴の男、危険ドラッグ使用容疑で再逮捕
神奈川県横須賀市の自宅で同居する両親を次男が殺害した事件で、逮捕・起訴された次男が、犯行の前後で危険ドラッグを使用した疑いが強まったとして再逮捕されました。
無職のU容疑者(36)は、去年10月、横須賀市の自宅で両親を包丁で刺して殺害したとして逮捕され、およそ4か月におよぶ精神鑑定の結果責任能力があると判断され、今月6日に殺人罪で起訴されました。
・・・取調べに対して、U容疑者は「危険ドラッグを吸ったり、あぶったりした。バターに混ぜてあぶった」などと容疑を認めているということです。
TBSニュース 2015年3月11日21:13
*****

<ニュースから>*****
●危険ドラッグ使用容疑で男を再逮捕 マンション女性切りつけ 警視庁
東京都世田谷区のマンションで昨年12月、女性がナイフで切りつけられた事件で、警視庁成城署は11日、危険ドラッグを使用したとして、医薬品医療機器法(旧薬事法)違反容疑で、職業不詳、T容疑者(31)を再逮捕した。同署によると「違法な薬物は使っていない」と否認している。
再逮捕容疑は同月3日ごろ、指定薬物の通称「5−APDB」など若干量の指定薬物を使用したとしている。T容疑者の尿から検出された。
・・・(T容疑者は)今月9日まで鑑定留置されており、同容疑は処分保留となっている。
産経新聞 3月11日(水)12時51分配信
*****

両事件とも、逮捕当時から、危険ドラッグ使用との関連が指摘されていただけに、被疑者に刑事責任を問うことができるかどうか、精神鑑定の結果が注目されていました。
報道によると、両親殺害事件では刑事責任能力があったと判断され、殺人罪で起訴。いっぽう隣人切り付け事件の方は責任能力に疑問があったようで、傷害事件では処分保留となり、改めて危険ドラッグ使用で再逮捕となったようです。

薬物の影響で精神に障害をきたし、自分の行為の意味や善悪がわからなくなったり、そうした行為を避けるだけの自己制御力を欠いた状態で犯罪行為が行われたような場合には、その行為を「犯罪」として処罰することができるかどうか、捜査段階から、慎重な検討が行われます。刑法第39条は、神喪失者の行為は罰しない、心神耗弱者の行為はその刑を減軽する、と定めているのです。

その判断にあたって、精神科医師など専門家による意見を求めるために行われるのが、司法精神鑑定で、取り調べのために勾留されている被疑者や、裁判手続中の被告人に対して行われます。
捜査段階で比較的よく行われる簡易鑑定は、数時間から1日程度の時間をかけて、専門医が問診や簡単な検査などを行い、鑑定するものです。
いっぽう、期間を定めて、被疑者・被告人を病院などの施設に移して行われるのが鑑定留置(いわゆる本鑑定と呼ばれる)で、裁判所の鑑定留置状によって行われます。2013年では、全国の裁判所が発布した鑑定留置状は526件、その大半が、起訴前の被疑者に対するもので485件(92%)、起訴後の被告人に対して鑑定留置状が発布されたのは41件(8%)でした(下記参照@)。

捜査段階で鑑定を行った結果、犯行当時の被疑者が心神喪失であった、あるいは心神耗弱であったとの鑑定意見が出された場合は、被疑者の刑事責任能力に大きな疑問が呈されたことになり、事件処理として公判を開いて審理することがふさわしいかどうか、考えなくてはなりません。事案によっては、検察官は起訴することを見合わせ、不起訴処分とすることもあります。2013年では、心神喪失を理由として不起訴となった被疑者は579人でした。罪名別でみると、傷害(179人)、殺人(102人)、放火(48人)といわゆる重大事犯での不起訴も相当な数にのぼっています(下記参照A)。このうち薬物の影響による事案の数は、残念ながらわかりません。

薬物の影響による事案を代表するものとしてあげられるのが、覚せい剤乱用者による事件で、覚せい剤乱用を繰り返したことから覚せい剤精神病を発症した人が、幻覚・妄想に支配されて事件を引き起こしたといったものです。こうした事件では、逮捕された被疑者は、急性の症状が治まった後も何らかの症状をもっていることが多く、精神鑑定にあたっても、事件当時の様子を理解することが、比較的容易です。
ところが、危険ドラッグの場合は、全く異なる事情があります。危険ドラッグを使用して極度の錯乱状態に陥った人も、数時間して、薬物が作用が消えてしまえば、何の異常もない状態に戻ってしまうことが多いのです。しかも、錯乱を起こしていた時のことは全く忘れてしまうことも珍しくありません。鑑定人の苦労が思いやられます。

さて、上記の2事件のうち、両親殺害事件は裁判員裁判の対象事件ですから、今後、公判前整理手続きを経て、今年後半ころには公判が行われることになるでしょう。裁判の成り行きによっては、今後、さらに新たな鑑定人による精神鑑定が行われることもあり得ます。いっぽう、隣人切り付け事件の方は、改めて指定薬物の使用事件として捜査が行われることになりますが、隣人に対する傷害事件に関しての捜査は、幕引きとなることでしょう。危険ドラッグの影響を知る事例として注目してきた人も多いかと思いますが、事件が不起訴となることで、捜査過程で得られた様々な情報が一切人目に触れなくなってしまうことに、一抹の割り切れない思いも残ります。

[参照]
@平成25年版司法統計年報 刑事編 第15表
http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list?filter%5Btype%5D=1&filter%5ByYear%5D=2013&filter%5ByCategory%5D=2&filter%5BmYear%5D=&filter%5BmMonth%5D=&filter%5BmCategory%5D=
A2013年版検察統計年報 第8表
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126683

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
リタリン使用による殺人で無罪判決があったそうですね。

パキシルやルボックスでの前例はあるのでしょうか。

潜在的にミノサイクリンなどのテトラサイクリン系が殺人や傷害事件を起こした件数はかなり多いはずです。

カンナビノイド作用であることが濃厚です。2nMで神経作用が出ることが分かっています。マウスの自発運動活性も麻薬指定クラスです。

死刑廃止は正しいです。このような潜在的な冤罪(薬害)が潜んでいるから。
匿名U
2016/10/09 10:53

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