弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 池袋暴走事件公判開始、新たな準危険運転条項で

<<   作成日時 : 2015/02/12 23:55   >>

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危険ドラッグによる死傷事故が相次ぐ中で、池袋暴走事件の公判が開始されました。
この裁判は、危険ドラッグによる死亡事故に対して、昨年5月から施行されている「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「新法」または「自動車運転死傷行為処罰法」といいます)」で新設された、いわゆる「3条危険運転」あるいは「準危険運転」条項が適用された最初のケースになります。
これまで、危険ドラッグによるとされる危険運転致死事件のうち、2件について、すでに第一審の判決が出ていますが、いずれも改正法が施行される前の事件であり、従前は刑法で規定されていた危険運転致死罪が適用されていました。
・愛知県春日井市で2012年に発生した事件
 危険運転致死事件 名古屋地方裁判所 平成25年6月10日 判決 
 懲役11年(求刑・懲役12年)
・香川県善通寺市で2014年1月に発生した事件
 危険運転致死事件 高松地方裁判所 平成27年1月26日 判決
 懲役12年(求刑・懲役15年)
ほかに、長野県中野市で2014年5月14日に発生した事件が、危険運転致死罪で起訴されたと伝えられていますが、これも新法施行直前の事故であり、刑法の規定が適用されることになるはずです。

もともと、危険運転致死傷罪とは、2001 年の刑法一部改正で新設されたもので、危険な運転であること(法文に従えば「正常な運転が困難な状態にある」こと)を認識しながらあえて自動車を運転し、その結果、人を死傷させた場合について、「故意犯」として、傷害罪や傷害致死罪に準じた処罰を科すという規定です。死亡や傷害の結果については認識が不要なので、法律的には結果的加重犯といわれています。

危険運転致死傷罪は故意犯ですから、被告人に、薬物の影響により「正常な運転が困難な状態にある」という認識がなければ成立しません。危険ドラッグのケースであれば、「使用した危険ドラッグの影響で正常な運転が困難な状態になっている」ことを自分でわかっていながら自動車を運転したと、認められなければばらないのです。
「正常な運転が困難な状態」であることの認識の有無は、例えば、ハンドルを思うように操作できない、前方注視が困難になったなどの運転操作時における事実のほか、ぼおっとしていて危ないので運転をやめるよう他人から注意された経験なども検討して、総合的に判断されることになります。この判断は、刑事裁判では非常に微妙で、難しい問題です。

これまで多くの事件で、被告人側は、正常な運転が困難になるとは思わなかったとして故意を否定してきました。また、こうした要件を満たさないとして、悪質で危険な運転による人身事故が自動車運転過失致死傷罪(過失犯)として処分され、世間の批判を集めたこともありました。

そこで制定されたのが、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」で、悪質で危険な運転による死傷事件について、その実態に応じた処罰ができるように整備を行ったとされています。
画像

↑アルコール・薬物運転で死傷事故を起こした場合の規定

新法では、危険運転致死傷罪については、従前の刑法の規定を引き継いだ第2条に加えて、要件を緩和した新たな条項が第3条として新設され、適用の範囲が広がりました。

第3条危険運転(いわゆる準危険運転)は、危険運転致死傷罪で要求されている危険性の認識(「正常な運転が困難な状態で自動車を走行させること」)の立証程度を緩和し、「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とその認識で足りるとしています。

当時の法制審議会の議事録 によると、
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、自動車を運転するのに必要な注意力や判断能力あるいは操作能力がそうでないときの状態と比べて相当程度減退している危険性がある状態をいい、状態としては、支障が生じつつある、あるいは生じているという場合のほか、将来の走行中に支障が生じるおそれがある場合を含み、その状態に対応した認識があれば故意があることになるとされています。
具体的には、
@アルコールの影響による場合は、酒気帯び運転罪に当る程度のアルコールを保有していれば「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあるということになり、その程度のアルコールを保有した状態の認識があれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになります。他方、酒気帯び運転罪に該当する程度に満たないアルコールを保有するにとどまる場合でも、アルコールの影響を受けやすい体質であるという事実などがあるときには、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」となる場合があります。その程度のアルコールを保有している状態でも危険性があるという認識があれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになります。
A薬物の影響による場合は、運転開始当初から薬理作用が発現しているかあるいは発現しつつある場合で、自動車を運転するのに必要な注意力や判断力、操作能力が相当程度減退している、あるいは減退しつつあって危険性がある状態にあれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあることになり、そのような認識があれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになります。また、運転開始当初には薬理作用がまだ発現していないという場合でも、将来の走行中に危険性がある状態になり得る具体的なおそれがあれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあることになり、そのような具体的なおそれの認識があれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の故意があるということになるとされています。他方で、例えば初めて服用する薬物で、その薬理作用について未必的な認識すらないという場合には、客観的には「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であったとしても、それに対応する故意に欠けるということがあり得るとされています。

薬物の影響による危険運転事件は、アルコールのケースと比べて事例が少なく、とくに危険ドラッグという、基本的な薬理作用や体内での代謝などもほとんど解明されていない、ごく新しい薬物の事件では、従来の危険運転致死傷罪の適用には、相当な困難があったことは無理からぬところでしょう。公表された判決書を読んでみると、裁判所の認定にも無理を感じるところが少なくなかったのは事実です。
新法施行後、危険ドラッグ類型の事案は、要件を緩和した第3条の適用が中心になることは、当然の流れともいえそうです。

しかし、死亡者1名に加え6名に重軽傷を負わせたという池袋暴走事件が、第3条(準危険運転)で起訴されたとなると、当然、検察官の求刑は法定刑の上限である15年以内にとどまります。これまでに審理を終えた2事件との均衡をどのように保っていくのかが、いささか気になるところです。

ところで、この事件が第3条(準危険運転)で起訴されたことで、裁判の形も変わりました。新法が規定する危険運転致死傷罪のうち、裁判員裁判の対象になるのは、第2条危険運転致死事件だけで、他はすべて、裁判官のみによる裁判となります。
危険運転事案の中核となる認識(故意)の認定は、とかく難解な議論になりがちですが、裁判員裁判に向けて進展してきた、わかりやすい裁判の流れが途切れないことに期待しつつ、今後の公判を注視していきたいと思います。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
法律で定めた危険運転行為の拡張範囲に、確か公道での猛スピード暴走行為も含まれていたと思います。

特に散見する暴走行為には、2つの属性が考えられます。

一つ目は、首都高速等を2車線使い、時速200q以上で我が物顔で激走する連中。

ハリウッド映画『ワイルドスピード3東京』でも首都高速激走シーンが登場。
首都高速のパトカーは、時速180q以上は取り締まらないから大丈夫……という台詞もありました。

彼等の素性は暴走族ではないのですが、金銭面が貧しく、モータースポーツの場であるサーキットを貸し切り走れない特徴が有ります。

二つ目は、アニメ『頭D』人気影響による、東京近郊峠道、大黒埠頭などのスライド走行。
こちらは直線中心の首都高速と違い、ある程度技術面も必要ですが、素人故によくガードレールに刺さり、度々見物人を轢いたりします。

どちらも日頃、サーキット、警察署許可範囲内占有公道、雪上氷上等でトレーニングを行ってないため、結果的に未熟運転が事故を引き起こします。

これらの危険運転行為は、明らかに故意犯です。

公道を走る立場から、彼等による危険運転行為の取り締まりも、切に願います。

神流美 王井門
2015/02/14 10:27
イギリスとイタリアを組み合わせたような豊かで風通しの
良い社会がいいですよね。
真実の情報を開示すること、その情報を一般市民が共有することが重要です。著しい人権侵害のない明るく楽しい
国家を創るためにご協力よろしくお願いします。
品格があって開放的な国になろう
2015/02/15 11:14

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