弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 危険ドラッグ所持で免許取り消し

<<   作成日時 : 2014/09/03 03:25   >>

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警視庁が、危険ドラッグ対策のひとつとして、危険ドラッグを車内に持っていた運転者を最長6カ月間の運転免許停止(免停)処分とする運用を月内にも始めると発表しました。危険ドラッグによる交通事故が相次ぐ中で、事故を未然に防ぐ取り組みだといいます。

危険ドラッグに関しては、これまで、事故が起きた場合の厳正な処分に重点が置かれてきましたが、これは、交通犯罪の防止を目的に、違反者を罰則で取り締まる刑事処分です。なお軽微な違反行為については、刑事処分をする前に行政処分が行われ、反則金を納付した者については刑事手続に移行しないこととなっていますが、これは刑法上の微罪処分にあたり、広義での刑事処分です。
いっぽう免許の取消や停止は、道路交通の危険を予防することを目的とした「行政処分」であり、刑事処分とは本質的に異なるものです。違反を繰り返す人、運転能力や技術に問題のある運転者を交通の場から排除し、道路交通の安全を確保するために行われるのが、運転免許の取消しや停止の処分なのです。

運転免許の取り消しや効力の停止について定めているのは、道路交通法103条で、その第1項1〜7号には免許を取消し、あるいはその効力を停止する具体的なケースが挙げられています(下記参照@)。
・幻覚を伴う精神病、発作により意識障害・運動障害をもたらす病気など一定の症状を呈する病気にかかっている者、運転に支障を及ぼすおそれがある身体の障害が生じている者、認知症(1〜2号)。
・アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者(3号)。 
・交通法令に違反したことによる処分。実務上では点数制度によって管理され、交通事故や違反行為には点数が割り当てられ、一定の点数に達すると免許の取消しや停止処分を受けることになります(5〜7号)。
・前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき(8号)。

上記の8号は危険性帯有者(将来的に道路交通上の危険をもたらす恐れのある人)に対する規定とされているものです。私の手元の解説書では、「一定の病気にかかっていたり、法令違反をした事実はないが、その者が運転に関するいわゆる心理的適性を欠くため交通事故その他道路における交通の危険を生じさせるおそれの多分にある場合等をいう。」と説明されています。
この条項が行政処分を定めているところから、こうした極端に予防的な規定も盛り込まれていますが、前記の解説書は「公安委員会が本号の規定により免許を取消し、又は停止する場合には、具体的な事実認定を慎重に行う必要がある。」としています(下記参照A)。

今回、警視庁が危険ドラッグを所持した者に対して、免許停止処分を求める方針を打ち出したのは、8号に定める危険性帯有者の類型のひとつに、危険ドラッグ使用者を加えるというもので、実際の運用指針となっている都道府県警察ごとに定められた「運転免許の効力の停止等の処分量定基準」を一部改訂することになるのだろうと思います。
ちなみに、よく似た規定として、従来からアルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者に関する処分が定められており(上記の3号)、たとえば覚せい剤中毒者と判断された場合は、交通事故や違反がなくても、覚せい剤を使用、所持したことで免許の取消しや停止処分を受けることがあると定められています。

参考のために、警察庁の通達(下記参照B)から、麻薬、覚せい剤等の使用等をした者等に対する免許停止の基準をみておきましょう。なお、ここでいう「麻薬、覚せい剤の使用等」とは、麻薬若しくは覚せい剤を自己に使用し、若しくは施用を受け、大麻若しくはあへんを吸食することをいいます。
<麻薬、覚せい剤等の使用等をした者等に対する処分>
■法定の除外事由なしに麻薬、覚せい剤等の使用等をした者、法定の除外事由なしに、使用等の目的で麻薬、覚せい剤等を所持した者等で、反復して麻薬、覚せい剤等の使用等をするおそれがあるもの・・・180日の免許停止
■免許を受けた者に対し、法定の除外事由なしに麻薬、覚せい剤等の譲渡し等をした者・・・180日の免許停止
■自動車の使用者等で、その者の業務に関し、自動車の運転者に対し、麻薬、覚せい剤等の使用等をして自動車を運転することを命じ、又は自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認した者(令第38条第5項第1号ロに該当する場合を除く。)・・・90日以上の免許停止
■麻薬、覚せい剤等の使用等をした者に対し、唆して自動車等を運転させ、若しくはこれを助け、又は自動車等を運転する者に対し、唆して麻薬、覚せい剤等の使用等をさせ、若しくはこれを助けた者・・・90日以上の免許停止

アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者については、昭和35年に道路交通法が制定された当時から、運転免許の欠格事由のひとつに挙げられ、「中毒者」と判断する基準などについて突っ込んだ議論もないまま引き継がれてきたものです。
免許の取消し、停止については、道路交通施行令において、中毒者であることが判明した場合には免許を取り消すが、6カ月以内に中毒者に該当しないこととなる見込みがある場合には、免許の停止とする旨が定められています。(38条3項)。しかし、近年において、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者であることを理由に免許の取消しが行われた例はごく限られています。免許の停止処分が行われた例もほとんどないのではないでしょうか。

今回警視庁は、危険ドラッグに関する免許停止処分を実効性のあるものにするために、危険性認定の条件を明確化して臨んだようです。
報道によると、(1)常習性(2)危険性の認識(3)運転に影響のある成分がドラッグに含まれる(4)ドラッグを使用して運転する恐れがある−−の4要件全てを満たす必要がある。立証のハードルは低くないが、警視庁は家族らへの聞き取りや自宅の家宅捜索なども実施し裏付ける方針だといいます(毎日新聞「危険ドラッグ:事故防止へ厳格姿勢…所持で免停」2014年09月01日 22時14分)。

よく似た規定がすでにあるとはいえ、このように予防的な規定を導入することに反論や戸惑いもあることでしょう。これが、前述の覚せい剤等の中毒者に対する規定と同じく実効性のない規定になってしまうか、効果的な抑止力になるか、運用状況を見定めていきたいと思います。

なお、余談になりますが、危険性帯有者規定の類型には、いわゆる暴走族対策も含まれています。昭和50年代、暴走族による危険な走行が問題になった時期に、道路交通法には行動危険行為に対する禁止規定が追加されましたが、あわせて、暴走行為の指揮者等共同危険行為を教唆し又は幇助した者に対しても、道路交通の危険性帯有者として運転免許停止処分を行うなど、行政処分の強化が図られました。
昭和56年版警察白書には、次のような記載があります。
「道路交通法違反で検挙された暴走族に対しては、運転免許の取消し、停止の処分を厳しく行っている。暴走車両を運転している者だけでなく、暴走行為を教唆、ほう助する者や、暴走車両に同乗して暴走行為に加わっている者についても、道路交通の危険を生じさせるおそれがあるので処分の対象としている。昭和55年に行った行政処分は、免許取消し1,055件、免許停止4,197件で、その合計は前年に比べ約3.7倍となった。」
(昭和56年版警察白書 第2章 明日のない若者たち)

目に余る道路交通上の危険行為が広がったとき、刑事処分としての取り締まりを強化するとともに、運転免許の停止等によって危険行為の未然防止を図るのは、警察のお家芸なのかもしれません。

[参照]
@道路交通法
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%93%b9%98%48%8c%f0%92%ca%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S35HO105&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

A道路交通法の解説書
道路交通法研究会編著「最新 注解 道路交通法U」631ページ、立花書房、2005年

B警察庁の通達
警察庁交通局「運転免許の効力の停止等の処分量定基準の改正について(通達)2013年11月13日
https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20131113-1.pdf

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