弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 密造拠点の中国への移動 | 覚せい剤密輸の半世紀8

<<   作成日時 : 2014/05/05 23:58   >>

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覚せい剤密輸の半世紀

第2章 大規模な密造地域の形成・・・1990年代〜

 韓国や台湾の覚せい剤密造拠点は、各国での取り締まり強化にともなって、さらに新たな地域に移転・拡散していきます。台湾の密造グループは、対岸の中国福建省や広東省の沿岸部に新たな密造拠点を広げ、また韓国の密造グループからは、韓民族の住む中国北東部へ密造技術が伝えられたといいます。
 中国の広東省や北東部で覚せい剤密造が次第に活発化し、それまでヘロイン乱用者が多かった中国に、新たな合成薬物として覚せい剤乱用が広がり始めました。同時に、中国から日本への密輸量も急激に増加していきます。

1、韓国、台湾での密造の鎮静化
 1990年前後の数年間、わが国への覚せい剤密輸が、一時的な縮小傾向をみせた時期があります。それまで、主に日本に供給するための覚せい剤を密造してきた韓国や台湾で、密造拠点の周辺に覚せい剤乱用が広がり始め、新たな国内問題となったことから、韓国や台湾で覚せい剤の密造・密売に対する取り締まりが強化され、密造・密輸出の活動が大きく制約されることになったのです。

 韓国は、1970年に習慣性医薬品管理法を制定し、覚せい剤の密造・密売の取り締まり体制を整備してきましたが、その後も密造は続き、やがて密造拠点の周辺に次第に乱用が広まり始めます。1980年ころには、覚せい剤乱用が新たな国内問題として浮上し始め、1988年には覚せい剤事犯の検挙人員が3,320人と過去最高に達したため、韓国大検察庁に麻薬課が新設され、取り締まりの強化が図られました[57]。また1989年には、覚せい剤密造原料となるエフェドリンに対する規制が導入され、この頃から韓国での覚せい剤密造は大幅に減少していきます。
 台湾でも、韓国の場合とよく似た経緯をたどりました。1960年代末に覚せい剤に対する法規制が導入された当時は、専ら密輸するために密造が行われ、覚せい剤は一般住民にとってほとんど馴染みのない存在だったといいます。覚せい剤乱用が国内問題として注目され始めたのは1990年ころのことで、実態調査で高校生の1%が覚せい剤を使用している実態が明らかになり、1970年代には年間数百人だった麻薬取締法違反の検挙者が、1993年には35000人を記録しました。1993年に政府は薬物撲滅宣言を発し、覚せい剤密造拠点の徹底摘発に乗り出したことから、密造組織はその活動拠点を中国本土に移転するようになりました[58] 。

 わが国への覚せい剤供給地となってきた韓国や台湾で、相次いで覚せい剤取り締まりが強化されたことで、わが国へ密輸される覚せい剤の状況にも変化が生じました。まず、1980年代後半に韓国ルートの密輸摘発が減少し、次いで台湾からの密輸摘発も減少し始め[59] 、1990年から1995年ころまでは、わが国の密売市場に供給される覚せい剤が少ない状態が続きました。1994(平成6年)版の警察白書は、「全国13の都道府県警察において、覚せい剤事犯被疑者の供述等から覚せい剤の密売状況を調査したところ、全国的に覚せい剤が品薄状態となり、密売価格が高騰している状況がうかがわれた。」と報告しています[60] 。

 韓国でも台湾でも、覚せい剤乱用問題が拡大し始めるとともに、徹底した取り締まりが行われ、比較的短期間で、とりあえず各国内での密造を鎮静化することに成功しています。しかし、強力な取り締まりによって成し遂げられた鎮圧の成果は、やがて、はかないものであったことが明らかになります。
 1990年代の初めころ、韓国や台湾で覚せい剤密造に対する取り締まりが本格化したとき、これに対応して、密造グループは新たな密造拠点を模索し始めました。1970年代に、わが国で覚せい剤密造に対する取り締まりが強化されたとき、密造拠点が韓国や台湾と知った近隣国に移転したのと同じことが、ここでも繰り返されたのです。
 こうした移転のメカニズムは、膨らんだ風船の一か所を押さえると別の箇所が膨らむところから、「風船効果」と呼ばれるそうです。2001年版の国連薬物犯罪事務所による資料には、1国での取り締まり強化に対応して、覚せい剤の密造拠点が近隣国に移転した「風船効果」の事例として、米国での密造取り締まり強化に対応してメキシコでの密造が増加した例とともに、日本から韓国やフィリピンを経て中国へと覚せい剤の密造拠点が移転していった動きがあげられています[61] 。

注釈と出典
[57] 平成7年版犯罪白書 第4編/第9章/第5節/1 、1995年
[58]Shih-Ku Lin,et al., The Drug Policy in Taiwan - Past and Future, 1993
[59]警察庁の統計によると、覚せい剤大量押収大量押収事案(一度に1s以上を押収した事案)において、韓国を仕出し地とするものは1989(平成元)年を最後に押収されなくなり、また台湾を仕出し地とするものは1994(平成4)年以降ほとんど押収がなくなっています。
[60]平成6年版警察白書 第6章 社会的危険の除去と環境の浄化、1994年
[61]UNODCCP, Global Illicit Drug Trends 2001, p14, 2001 。なおUNODCCPは国連薬物統制及び犯罪抑止事務所の略称、現在のUNODC(国連薬物犯罪事務所)です。

続く

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
>密造拠点が韓国や台湾と知った近隣国

「密造拠点が韓国や台湾といった近隣国」のミスでしょうか?
滅智蓮寺 熾
2015/09/29 21:51

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