弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 法的概念としての共謀|覚せい剤輸入の逆転有罪事件・2

<<   作成日時 : 2013/04/21 08:20   >>

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メキシコから送られた約6キロの覚せい剤輸入で、貨物の受取役を務めたメキシコ人男性に対して、第一審では無罪、控訴審で逆転有罪が言い渡された事件。最高裁は16日、被告人の上告を棄却する決定を下しました。本決定は、依頼者である犯罪組織と、実行役を引き受けた被告人の間の共謀の認定について、改めて整理したものだと思われます。

●裁判員に法的概念をどう説明するか
覚せい剤輸入事件において、運び役や貨物の受取人といった、重要ではあるが部分的な役割を担った被告人の事件の多くでは、故意と共謀が主要な争点になり、被告人が覚せい剤の輸入であると気づいていたか、また依頼者(犯罪組織の関係者)と意思を通じあっていたかについて、判断が要求されます。しかし、客観的な証拠が極めて限られるのは、こうした事案のいわば宿命で、問題の覚せい剤が日本に到着するまでの経緯に結びつくものは、被告人自身の供述以外には、ほとんどないのです。
大谷剛彦裁判官は、補足意見で次のように言います。
「被告人の故意も共謀も主観的な認識に関わる事実であるが、覚せい剤密輸入事犯においてこれが争われる事案では、その認定は、犯罪組織と被告人との関係、被告人への依頼の状況、依頼の内容、被告人の引受け状況、被告人の関与態様等の客観的事実からの推認という方法によらざるを得ず、その推認は、論理則、経験則を用いての合理的な推論によって行われることになる。」

ここでいう「合理的な推論」とは、一般に、⑴被告人と共犯者の間で犯罪実行について意思の疎通があるか、⑵「自らの犯罪」を共同実行したと評価するにふさわしい犯行への寄与・役割等があったか、を検討することとされるのですが、そこにはいくつかの約束事があります。たとえば意思の疎通に関して言えば、具体的な謀議や明確な合意が確認されなくても、犯罪の骨格について暗黙の了解が成立していれば、意思の疎通があったと認めることができるとされているのです。

補足意見は、仮に、こうした法律的な概念が裁判員に正しく理解されなかったとすれば、その判断の適否は控訴審で見直しされることになると指摘しています。
さらに、大谷裁判官は、法的な概念を裁判員と裁判官が共有することの重要さに触れ、「裁判員に対し、適切な説明を行って職責を十分に果たすよう配慮する趣旨においても、法的概念についての共通の理解と認識に向けて、一層の研究と裁判官(長)の説明努力が期待される」として、補足意見を締めくくっています。

意見中でも指摘されているように、裁判員制度に向けて、こうした法的な概念を裁判員にわかりやすく説明するために、法曹関係者はそれぞれの立場で研究を積んできました。たとえば、2011年から法律専門雑誌「判例タイムズ」に連載が始まった「裁判員裁判における法律概念に関する諸問題」というシリーズも、こうした研究のひとつです。その第6回に、「共謀」について裁判員に対してわかりやすく説明する案があるので、その一部を紹介します。

*****
3 共同正犯が認められるためにはどのような要件が必要か
(1)被告人と共犯者との犯罪実行に関する意思疎通
まず,共同して犯罪を実行する以上,当然のことですが,共犯者が桓互に,この犯罪を一緒にやろうという意思を互いに通じ合っていなければなりません。
ア意思疎通の方法
どこかの部屋に共犯者みんなが集まって犯罪の計蘭を謀議しているような場合には,互いに意思疎通があることは明らかですが,もちろん,犯罪はこんな分かりやすい場合ばかりとは限りません。裁判員の皆さんも軽験がおありかと思いますが,他人と意思を通じ合うためには,必ずしも言葉を交わさなくとも,アイコンタクトでそれを行うことも可能ですしまた,相手の態度を見てこちらが一定の態度を示すことによって無言のうちに意思疎通を行うことも可能ですね。暴力団のような場合ですと組長が配下の組員に対しあごをしゃくり,組員がその意味を理解して一定の犯罪行動を行えば,これも立派な意思疎通です(下記参照Aより)。
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●「足りない」という裁判員の声にどう応えるのか
さて、このたびの最高裁決定によって、覚せい剤輸入事犯における「共謀」の認定について、一応のガイドラインが示されました。しかし、これで問題が解決したのでしょうか。
第1審の判断には、従来の考え方からすれば見直されるべき点もあるでしょう。しかし、従来の裁判で積み上げてきた認定方法をあまりに尊重するなら、裁判員が参加することの意味が薄れてしまうのではないでしょうか。

むしろ私には、第1審の判決は、懲役15年を求刑されるという重大犯罪の判断において、「法的概念」や「推認」を積み重ね、「暗黙の了解」をもって共同正犯と認定するという、あまりにも不確かな認定手法しかとれないことに対して、裁判員が真摯な疑問と否定を投げかけたものだと思えてなりません。
第1審判決は、結論部分で「本件で問題となっているのは、本件犯罪の刑事責任を被告人に問うてよいか否かの点なのであり、他の事件より有罪の証明の程度が低くなるわけではない。」として、有罪を認定するための立証があまりに不足していることを指摘しています。
裁判員に法的概念を理解してもらうことと並行して、より緻密な立証のあり方を真剣に検討しなければなりません。
さらに言うなら、輸入の利益配分にあずかることのない、犯罪組織の部外者である被告人に対して問うべき刑の重さについても、問い直す必要があるのではないでしょうか。

[参照]
@ 平成25年4月16日 第三小法廷決定
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130418095233.pdf
A 大阪刑事実務研究会「裁判員裁判における法律概念に関する諸問題6、共犯(1)―共謀共同正犯の成立要件(下)」判例タイムズ1356(2011.12.1)pp.50-72

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