弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 覚せい剤と出産1

<<   作成日時 : 2013/01/06 21:31   >>

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新聞の小さな記事が、新生児の尿中に覚せい剤が検出されたことで、その母親を覚せい剤使用罪で逮捕したと報じています。
刑事司法の観点からいうと、新生児の尿中から検出された覚せい剤を根拠に、その母親の覚せい剤使用を立証しようというのは、あまり例のない手法です。当然、母親の尿も検査されたはずですが、検査の時期が遅かったのか、母親の尿からは覚せい剤が検出されなかったのでしょう。もしこの事件が起訴されるとしたら、どのような立証がなされるのか注目したいところです。
いっぽう、こうした事例は、妊娠中の女性が覚せい剤を使うことで、胎内で守り育ててきた子どもの命を危険にさらしてしまうという、とても重大なメッセージを含んでいます。幸い、医療チームの適切な判断のおかげで、仮死状態で生まれた子どももその後健康を取り戻したといいますが、裁判の過程を通じて、この小さな命が危険にさらされた具体的な状況について、続報が明らかになることでしょう。

<ニュースから>*****
●新生児の尿から覚醒剤成分、妊娠中使った女逮捕
北海道警函館中央署は5日、妊娠中に覚醒剤を使ったとして、北海道函館市西旭岡町、無職A容疑者(37)を覚醒剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕した。
同署の発表では、A容疑者は昨年10月、函館市かその周辺で覚醒剤を使用した疑い。同署の調べに、A容疑者は容疑を認めているという。
同署幹部によると、A容疑者は同月24日に市内の病院で女児を出産。女児が仮死状態だったため、病院が検査したところ、尿から覚醒剤成分が検出されたという。通報を受けた同署の捜査で、A容疑者の覚醒剤使用容疑が固まり、同署は逮捕に踏み切った。女児は回復し、退院したという。
YOMIURI ONLINE・読売新聞(2013年1月6日00時18分 )
*****

1、刑事司法の観点から
通常では、使用者の尿中に覚せい剤が検出された場合に、覚せい剤の使用罪として立件されることになります。
覚せい剤は、摂取後血液の流れに乗って体内を循環して代謝され、時間の経過とともに体外へ排泄されます。尿だけでなく、汗や涙などにも排泄される覚せい剤は含まれており、またその一部は爪や皮膚、毛髪などにも取り込まれます。つまり、覚せい剤使用の痕跡は、体中のあらゆる場所に明確に残り、検出することができるのです。
しかし、刑事司法手続において、覚せい剤使用罪を証明する証拠となりうるのは、現在のところ、尿中に検出された覚せい剤に限られます。その理由は、人が覚せい剤を摂取した場合に、それが代謝され、尿中に排泄されるまでの経路や時間などを含めた過程が、細部まで十分検証されているため、尿中に覚せい剤が検出された場合、その人物が一定の期間内に覚せい剤を摂取したと、合理的な疑いの生じないレベルで判断することができるわけです。
毛髪に取り込まれる覚せい剤に関しても、これまでに多くの研究がなされ、かなり究明が進んでいますが、しかし、尿への排泄と同じレベルに達しているとはいえません。一定量の覚せい剤を摂取したら、いつ、どの程度の量が毛髪中に移行するのかまで把握されていないため、現状では、覚せい剤使用を立証するものとして、毛髪中の覚せい剤鑑定結果はごく限定的な場合に使われています。

さて、ここで問題になるのは新生児(胎児)のケースですが、これについてはまだ十分な研究がされているとはいえず、出産直後の新生児の尿から覚せい剤が検出されたことを主な根拠として、その母親の覚せい剤使用を立証するというのは、きわめて異例なことになります。
もちろん、母親が摂取した覚せい剤は胎盤を通じて胎児にも届き、その発育に影響を及ぼしていることに疑いはありません。しかし、母親が摂取した覚せい剤が胎児に移行し、その体内で代謝され、尿として排泄されるまでのメカニズムが明らかになっているとはいえません。こうした研究は動物実験に頼らざるを得ず、これまでに発表された主な研究はモルモットやラットでの試験によるものが中心であり、ほかに、覚せい剤使用者の母親から出生した新生児に関する臨床報告がいくつかある程度です。

類似の事例として、2011年に栃木県で起きた乳児死体遺棄事件では、遺棄された乳児の遺体から覚せい剤が検出され、その母親が死体遺棄と覚せい剤使用の罪で裁判を受けたと伝えられています。残念なことに、私はこの事件の裁判の詳細を把握していませんが、もし乳児から検出された覚せい剤によって母親の覚せい剤使用を認定したのであれば、この事件が先例になったのでしょうか。
このような領域で司法判断が求められるケースでは、必ずしも十分とはいえない科学的な文献を吟味するために、専門家の意見を積極的に求めることもあって良いと思います。たとえ被告人が公訴事実を認めていても、犯罪の証明として要求されるレベルが下がるわけではないのですから。

[過去の関連記事]
@ 妊娠中の女性と薬物使用
http://33765910.at.webry.info/201112/article_10.html
A 妊娠・育児と覚せい剤
http://33765910.at.webry.info/201108/article_12.html

なお、引き続き、「2、妊娠中の覚せい剤使用とその影響」についての記事を掲載するつもりです。妊娠中の覚せい剤使用の影響に関して、とても重要な研究報告が、昨年アメリカで発表されています。

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