弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 脱法ハーブによる危険運転、京都地裁で初の判決・続

<<   作成日時 : 2012/12/10 00:43   >>

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12月7日付の記事「脱法ハーブによる危険運転、京都地裁で初の判決」から続きます。

そもそも本件は、脱法ハーブ吸引者による無謀運転に対して社会の非難が高まる中で、いわば、運転者に対して強い警告を発することを意図して、相次いだ同種の事件に対して、あえて、より厳しい危険運転致傷罪を適用して起訴されたものだと思います。
たしかに、強力な精神作用をもたらす脱法ハーブを吸引して自動車を運転することは極めて危険性の高い行いであり、実際、今年10月には、愛知県春日井市で脱法ハーブを吸引者が運転するワゴン車にはねられて、通学途中の女子高生が死亡するという事故まで起きてしまいました。
脱法ハーブによって引き起こされる被害の中でも、無関係な他人を重大な死傷事故に巻き込んでしまう自動車事故は、最も悪質であり、かつ深刻なものといえるでしょう。

しかし、刑事裁判における認定が、こうした社会情勢をあまりに柔軟に受け止めてよいでしょうか。最高裁判所平成23年10月31日決定(いわゆる福岡飲酒運転3児死亡事故上告審)において、田原裁判官は反対意見として「本件事故の結果は、過失(刑法211条1項)によっても生じ得る事態であるにもかかわらず、(多数意見は)その結果の重大性に引きずられて、被告人がアルコールの影響による運転困難状態にあったことを認識していたことを推認するもの」であると厳しく批判していたことが思い起こされます。

いま最も急がれるのは、立証の不足を乗り越えて被告人に厳罰を科すことではなく、科学的なデータや専門家による検証を集積し、立証の不足を補うことだと思います。前記事でも述べたように、資料がまったくないわけではなく、科学的知見を語ってくれる証人がいないわけではありません。当該薬物の及ぼす作用について、専門家による知見の陳述などが取り入れられることが必要ではないでしょうか。
かつて私が弁護人をつとめたある事件は、脱法ドラッグとして販売されていた薬物の影響下で起きた重大事件でしたが、当時はほとんど未知のこの薬物に関して、分析サンプルや科学的なデータを求めて、捜査陣は幅広い専門家の間を打診して回ったと聞きました。法廷では、化学分析の専門家が証人として出廷し、この薬物について詳しい説明を聞くことができましたが、裁判官、検察官、そして弁護人である私も、証人の説明に熱心に耳を傾け、問題の薬物がもたらす影響を理解しようとつとめたものです。

ところで、不足している科学的なデータに関して、ひとこと。そもそも脱法ドラッグの性質上、科学的な検証が限られるのは宿命であるといえるでしょう。しかし、指定薬物に指定するにあたって、厚労省の関係機関では各種の文献を検討し、さらに実験なども行い、その危険性評価が行われています。ところが、その貴重な資料が公開されないというのが現状のようです。刑事事件の捜査にあたる科学捜査研究所が、薬物の分析鑑定に必要な標準物質や分析データの入手に難渋している事情なども漏れ聞くこともあります。
英国では、薬物行政に対して専門的な助言をする機関として薬物乱用諮問委員会Advisory Council on the Misuse of Drugs (ACMD)が設けられていますが、この機関が政府に対して答申する際には、答申書の提出と同時に、その内容がインターネットで公開されています。私はこれまで、ACMDの答申書を通じて、脱法ドラッグについてすいぶん勉強させてもらってきましたが、残念なことに、日本の公的機関の文献はほとんどないのです。

たまたま今年8月30日に開催された薬事・食品衛生審議会 指定薬物部会議事録がつい先日公開されましたが、その中で、ある委員が、委員会で収集した科学データを外部にも開示することを強く求める発言をしておられるのを知りました。内部からこのような声が上がったことを大変心強く思うとともに、捜査機関や検察庁などからも、もっと強く資料の開示を求めてほしいと感じています。もちろん私たち市民も、有益な資料の開示を求めて声をあげていかなくてはなりません。

脱法ドラッグについて、科学的な知見に基づいて意見を交わしあえる社会にすることが、いますぐ必要だと、つくづく思っています。

[参考]
2012年8月30日 薬事・食品衛生審議会 指定薬物部会議事録
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002q5u6.html

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