弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 刑の一部執行猶予制度|参院で可決、衆院へ

<<   作成日時 : 2011/12/04 22:40   >>

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12月2日、刑の一部執行猶予制度を盛り込んだ刑法等の改正案が、参院本会議で全会一致で可決され、衆院に送付されました。長らく宙に浮いていた法案がいよいよ具体化の段階に入っていますが、私には、この法案のもっている曖昧さが、どうしても気になっています。
薬物の自己使用という問題の解決に、長期間の刑事施設収容という方法を中心に対処してきた日本の刑事司法が、この法案で改善されるのか、さらに重罰化してしまうのか、肝心のところが曖昧なまま、国会審議が進んでいるのです。

<ニュースから>
●刑法:改正案、参院委可決 刑の一部執行猶予など
刑の一部執行猶予は、刑務所内での「施設内処遇」と出所後の「社会内処遇(保護観察)」を連携させることで再犯防止を狙う。
「実刑」と「(全期間)執行猶予」の中間に位置付けられ、裁判所は、軽微な犯罪で初めて服役する人と、覚醒剤など薬物使用者に3年以下の懲役か禁錮の判決を言い渡す場合に、一部執行猶予を付けることができる。
例えば「懲役2年、うち6カ月は2年間執行を猶予する」との判決が確定した場合、先に刑務所で1年6カ月間、服役。出所後の2年間に新たな罪を犯さなければ、残る6カ月間は再び刑務所に入らずに済む。
裁判所は一部執行猶予判決を出す際、初めて刑務所に入る人に保護観察を付けることができ、薬物使用者に対しては必ず保護観察を付けることになる。(記事の一部)
毎日新聞 2011年12月1日 東京夕刊
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20111201dde041010092000c.html

●いま国会で審議されている法案とは
たとえば覚せい剤の単純所持や使用といった非営利犯で有罪判決を言い渡される場合、これまでは、「実刑」か「執行猶予」に限られていました。刑の一部執行猶予制度は、刑のうち一定期間を執行して施設内処遇を行った上で、残りの期間の執行を猶予して社会内処遇を行うという刑の言渡しの選択肢を設けるもので、「実刑」と「執行猶予」の中間に位置するものだといわれてきました。
この法案は、形式的には■刑法等の一部を改正する法律案、■薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律案、の2本立てになっていますが、次のような内容によって構成されています。
■初入者に対する刑の一部の執行猶予制度
これまで刑務所に入ったことのない者(初入者)が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、1年以上5年以下の期間、その一部の執行を猶予することができる制度を導入することによって、まず、刑事施設に収容し、施設内処遇を受けさせて改善更生を図った上で、その効果を維持すべく、引き続き社会内処遇による改善更生を図る。
■薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度
薬物使用者に対しては、初入者でない者であっても、その刑責の範囲内において、まず刑事施設において薬物への傾向性改善の処遇を行った上、引き続き、その効果を維持・強化するため、薬物の誘惑のあり得る社会内において、相応の期間にわたり適切な社会内処遇を十分に受けさせることができるよう、刑の一部の執行を猶予することができるものとする。

なお、この法案の全体像を理解するために、衆参院調査室による次の資料があります。
[参照・法務委員会調査室による資料]
「刑の一部執行猶予制度・社会貢献活動の導入に向けて」
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2011pdf/20110701059.pdf

●具体的なビジョンがみえない
数年前、この法案の大まかな概念が提示されたとき、私はこれを社会内処遇の拡充施策だと受け取りました。薬物事犯者にとって、言い渡される刑の一部を社会内で保護観察を受けながら過ごす道が開けるのであれば、とりあえず一歩前進だと思われました。しかし、新制度が目指すものはいったい何なのか、今になっても具体的なイメージがみえてきません。新制度には、「実刑」と「執行猶予」の中間的な処遇を設けて薬物事犯者の更正・社会復帰を支援する側面と、「施設内処遇」+「長期間の保護観察」を連動して再犯防止を図る側面があり、そのどちらに重点を置くかで施策のビジョンはまったく違うものになると思われるのです。

[仮定シナリオA]
■「実刑」と「執行猶予」の中間的な処遇によって薬物事犯者の更正・社会復帰を支援する
薬物事犯で実刑判決を受ける人の中には、従来の科刑基準による実刑の言い渡しが、いささか過酷に思える人たちがいます。たとえばAさんは、薬物事犯で執行猶予付きの判決を受けた後、薬物を断ち、生活を立て直し、執行猶予期間を満了して安定した社会生活を続けてきたものの、数年後に、偶然出会った昔なじみに誘われて再び薬物を入手してしまいました。本当に惜しいケースですが、前の判決から5年や6年程度の経過時間では、同種再犯者として実刑を言い渡される可能性が大きい立場です。
このような人に言い渡す刑として、「実刑」と「執行猶予」の中間的な処遇を設けることには、それなりの意味があるかもしれません。
しかし、仮にこうしたケースを想定して新制度が運用されるとすれば、現行の仮釈放を前倒しすることで十分に対応可能であり、わざわざ新制度を設ける理由を見出しにくくなります。とくに、長期の保護観察には、さして意味を見出すことはできません。対象者には、基本的に自力で生活を立て直す力があり、拘束度合いの高い保護観察プログラムを長期間義務付けることは、ともすれば、生活再建の足かせとなるおそれもあります。

[仮定シナリオB]
■「施設内処遇」+「長期の保護観察」を連動して、薬物事犯者の再犯防止を積極的に図る
いっぽう、この制度は施設内処遇+比較的長期にわたる社会内処遇の連動によって、薬物事犯者の再犯防止を積極的に図るものだと考えるなら、対象とすべき人たちの層が違ってきます。
中高年の薬物事犯者のなかには、薬物犯罪を中心に再犯を重ね、多数回の受刑歴をもつ人たちがいます。覚せい剤を使う生活と縁を切ることができず、刑務所を出所して間もなく覚せい剤使用を再開してしまうのです。再犯を重ねるたびに科される刑は重くなり、ごく少量の薬物の単純所持や自己使用という罪に対して3年を超える実刑が言い渡されることも珍しくありません。
短期間に同種再犯を繰り返す人たちに向けた再犯防止策を講じることは、全体の再犯率を引き下げる有効な対策であるといえるでしょう。しかし、累犯を理由に言い渡す刑を選択するとすれば、他の場合より重い刑を言い渡すことになりがちで、薬物の単純所持や使用という罪責につりあわない、過度に懲罰的な科刑という要素を帯びてしまいます。
しかも、保護観察の現場は、再犯リスクの高い人たちを長期間保護観察の対象として処遇するという、困難な課題に直面することになるのです。実は、現在行われている薬物事犯仮釈放者に対する保護観察プログラムでは、この層の人たちはあまり対象者になっていないのです。何度も受刑を繰り返した彼らの多くは、仮釈放の身元を引き受けてくれる人もなく、満期出所することが多く、出所後に保護観察プログラムを受ける機会も少ないのです。こうした人たちに対して長期の保護観察を行うことが、どこまでできるか・・・現状でははなはだ不透明です。

法制審での審議過程では、[初入者に対する刑の一部の執行猶予制度]に関しては、上記シナリオAに近いものが想定され、[薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度]に関しては、上記の仮定シナリオBに近いものが想定されていたようです。それならば、薬物事犯者に関しては、まったく違った性格の2種類の施策が、同時進行でスタートすることになるのでしょうか。
とにかく、どんな人たちを対象に、何を目的に行われる制度なのか、具体的なイメージがさっぱりつかめません。これから行われる衆議院委員会での議論で、このあたりが十分に論じられ、整理されることに期待したいものです。

ともあれ、薬物事犯者にとって影響の大きい制度が生まれようとしている今、いたずらに仮定を積み上げるという空しさを感じつつも、新制度について引き続き考えてみたいと思います。

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薬物での実刑を長くすればするほど再犯すると思う、実際に目の前でその様な人を見て来たから出所して早く社会に復帰しようと思う気持ちが空回りになり又してしまう特に50代半ばの人はこのケースです
ヒデタン
2014/04/16 13:37

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