弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 60%という神話|2010カリフォルニア大麻論争12

<<   作成日時 : 2010/10/16 23:58   >>

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アメリカの政策分析機関ランド社が最近発表した、カリフォルニアの大麻合法化とメキシコの麻薬カルテルへの影響に関する研究報告書の一部分に、話題を呼んでいる項目があるので、紹介します。
[出典]
『メキシコの薬物取引と暴力の削減:カリフォルニアの大麻合法化は役立つか?』27ページ
Reducing Drug Trafficking Revenues and Violence in Mexico:Would Legalizing Marijuana in California Help?
http://www.rand.org/pubs/occasional_papers/2010/RAND_OP325.pdf

大麻合法化をめぐる議論で、よく引き合いに出されるデータがあります。
「メキシコのカルテルの収益の60%以上、86億ドル強は、アメリカ合衆国に向けて密輸する大麻販売によるものである。」
これはホワイトハウスの国家薬物政策局(ONDCP)が2006年の『国家薬物管理戦略2006 National Drug Control Strategy』に掲載したものですが、ランド報告書は、この数字には信憑性がないと指摘しています。

この数字は、アメリカの大麻市場の大きさを印象付けるものとして、よく引用されています。また、メキシコのカルテルに関連した暴力事件が注目を集め始めた昨年には、米国メディアは何度もこの数字を引用し、メキシコで起きている暴力事件が、アメリカ人の大麻使用と直接関係していると、警鐘を鳴らしてきました。

たとえば、CNNのビデオ「大麻というビッグビジネスThe big business of marijuana」は、ONDCPの資料を引用して、メキシコの麻薬カルテルがあげる収益の62%は大麻によるもので、年間85億ドルにのぼり、コカインによる収益39億ドルの2倍を超えていると伝えています。
CNN>The big business of marijuana(2009年4月14日)
http://edition.cnn.com/video/#/video/crime/2009/04/14/am.meserve.drugs.cnn?iref=allsearch

またワシントン・ポストのメキシコのカルテルに関する記事には、次の記載もあります。
「合衆国の薬物取り締まりは、コカインやヘロイン、メタンフェタミンに重点を置いているが、長年にわたりメキシコの薬物カルテルの資金源となってきたのは大麻である。ホワイトハウスの国家薬物政策局によれば、カルテルの収益の60%以上‐‐2006年では総額138億万ドル中の86億ドル‐‐が合衆国での大麻販売によるものである。」
The Washington Post> Cartels Face an Economic Battle(2009年10月7日)
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/10/06/AR2009100603847.html

さらに、カリフォルニアで大麻合法化をめぐる論争が活発になるにつれて、新しい論調も生まれました。大麻合法化に反対する人たちは、大麻使用がもたらす深刻な影響を印象付けるためにこの数字をとりあげました。いっぽう合法化を支持する人たちは、カリフォルニアが大麻を合法化することがカルテルの収益を減らし、ひいては暴力問題の解決につながると、同じ数字を根拠にして論戦を展開しました。反対派にとっても、支持派にとっても、実に使いやすい材料だったわけです。

さて、ランド社の報告書は、この数字そのものの信憑性を否定し、メキシコの麻薬カルテルがアメリカ合衆国向けの大麻卸売りから得る収益は15億ドルから20億ドル程度、カルテルがあげる全収益の15〜26パーセントという推定値を算出しています。計算の根拠は報告書に詳しい説明が記載されていますが、煩雑になるので、ここでは割愛します。
この結論は、政府機関が発表したデータを否定するものであると同時に、カリフォルニアでの大麻合法化をめぐる議論が、インパクトのある数字だけを頼りに、根拠のない論争を展開していた状況に、水をさしたものだと受け止めてよいでしょう。インパクトのある数字や、情に訴えるわかりやすい理論には、ときにこんな落とし穴がつきまといます。

大麻論争のなかでは、こうした「神話と真実」がいくつも取り上げられてきました。大麻の影響をわかりやすく伝えるために、誇張した表現をしたり、一面的なデータを強調するというあやまちが繰り返されてきたのです。
薬物使用の実態、とくに大麻に関しては、わからないことだらけです。もし大麻を合法化したらどうなる・・・まじめに考えるほど、結論は「わからない」になってしまいます。仮に、不法薬物としての規制を外したとしても、野放しで何でもOKになるわけではなく、行政上の指導監督や課税による価格調整などによるコントロールは必要です。こうした管理手段のとり方によって、合法化された大麻市場の性格は大きく変化するでしょう。
また、ランド報告書が繰り返して指摘するように、連邦政府の対応によっても市場の状況は異なるでしょう。
プロポジション19は、議論のゴールではなく、単に中間点に過ぎないのかもしれません。投票の結果がどちらになろうと、議論の幕が上がったのです。まだまでゴールはみえません。

なお、ONDCPは2010年9月16日付で、「メキシコの薬物取引組織が大麻から得る収益に関するONDCPの声明」を発表し、「薬物カルテルはその収益の60%を大麻取引で得ているという推計は、1997年のデータによるもので・・・・現在では当てはまらない。」としています。
ONDCP>•ONDCP Statement on Mexican Drug Trafficking Organization Profits from Marijuana
http://www.whitehousedrugpolicy.gov/news/press10/MJrevenue.pdf

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
>とくに大麻に関しては、わからないことだらけです。 もし大麻を合法化したらどうなる・・・

オランダが良いモデルケース、簡単な事。
電P
2010/10/17 13:26
アルコールを容認している社会なのか、大麻を容認している社会なのかという枠からはなかなかでない。
情報の一面生の誇張というのはいまのとこアルコールのほうが酷い。真実より慣習のみが重視されるのであれば人類における社会の進歩はない。大麻における科学的な研究結果を以てしても国が太鼓判を押さなければ信用あるエビデンスにならない。そしていまのところ公にそれをする先進国はない。アルコールにおける害も周知の事実だと思うがこの差は....。
BANP
2010/10/18 08:39
個人使用目的の少量の所持に逮捕の現行法はデメリットのほうが大きい。小森先生の今後の大麻問題に関する調の変遷を見守りたいと思います。
野中
2010/10/25 20:44

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