弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 薬物問題をめぐる報道と問題の実態・1

<<   作成日時 : 2009/10/20 09:11   >>

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2008年から2009年にかけて、薬物問題が頻繁に話題になりました。そのたびに、私は会う人ごとに、世間の関心と実態のズレについて説き続けていますが、ますます落差が広がっているように思います。
この1、2年で話題になったニュースをめぐって、報道と世論の虚実について、あらためて見直してみます。

●大学生に広がる大麻汚染
この当時、メディアが頻繁に取り上げた話題のひとつが、■大学生に広がる大麻汚染■というテーマでした。2007〜2008年にはいわゆる有名私大の学生が大麻所持で検挙される例が相次いだことから、あたかも、大学生の大麻事犯者の検挙が激増しているかのような報道がされました。
私は報道関係者から頻繁に、大学生の大麻事犯が増加している背景は何かと質問を受けました。しかし、私はとくに大学生の検挙者が増えているという兆候は感じていないし、そうした発表もされていません。この当時、報道関係者を相手に、かみ合わない問答を何度も繰り返したことを記憶しています。
2007年の統計をみれば、結局、大学生の大麻事犯の増加という現象は報告されていません(警察庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成20年中の薬物・銃器情勢 確定値』)。報道発表によれば、大学生の検挙者は94人と伝えられました。とくに増加してはいません。虚構の話題がメディアをかけめぐり、あたかも実態であるかのように伝えられたのです。

[虚像]
■大学生に広がる大麻汚染■

[実態]
・大麻事犯として検挙される者のうち、少年および20歳代が占める割合が約6割であり、青少年層が多数である。ただし、この年齢層の占める割合は少しずつ減少している。つまり、30歳以上が次第に増加している。
・大学生の検挙者は2007年の速報値(報道発表)では94人。2003年の101人、2004年の114人より少ない。
・2007の統計でみると、少年および20歳代の検挙人員は1730人。そのうち94人が大学生ということになる。
・2008年の統計では、大学生の検挙人員に関する発表はないが、断片的な情報を突き合わせると、増加していない。

[実際の問題]
・ 大麻事犯で検挙される大学生は、絶対数ではそれほど多くないが、検挙につながらない暗数は把握されていない。
・ 薬物の種類別でみると、覚せい剤の24人に対し、大麻が94人(2007年)。大学生では乱用第一位の薬物が大麻になっていることがうかがわれる。
画像

グラフは@警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成17年中の薬物・銃器情勢』12頁、A2008/12/02 12:39配信の共同通信ニュース の数字に基づいて私が作成したものです。

[虚像の誕生]
以下は、一連の報道を観察してきた私が、あくまでも個人的に考えていることです。
2007年末ころから、大学生が単純な大麻所持事件で逮捕されたという報道が続きました。いずれも、少量の大麻を所持したという、事件としてはありふれたものです。私は、青少年の薬物乱用事件を日常的に取り扱っており、当事者の中には大学生もいます。従来は、こうした事件がとくに報道されるということは、東京では、ほとんどありませんでした。少なくとも、私が扱った範囲では、皆無でした。私は、この変化を不審に思い、戸惑い、そしてその背景について考えざるを得ませんでした。
思い浮かぶのは、数年来続いている覚せい剤事件の減少傾向です。これまで日本の薬物問題の大半を占めてきた覚せい剤の流通量が減少し、末端での密売価格が高騰したことから、覚せい剤乱用者が自然に減少してきているのです。おかげで、日本の薬物問題は大幅に改善されつつあります。また、世界の動向も、同じように、全般的に薬物問題の改善を示しています。
ただ、そのなかで、大麻だけは、若干とはいえ増加を続けています。当然ながら、当局や社会の関心は、大麻に絞られることになります。これからの問題は大麻だ、という意識が広がったわけです。なお、世界的にも、大麻だけは増加傾向にあります。
大麻の問題を担うのは、若者です。世間の耳目を集め、警鐘を鳴らすにはちょっとしたインパクトがあったほうがいい。「大麻乱用で大学生を逮捕」「一流大学で次々と逮捕者が」こんな発表が続き、それを受けたメディアはさらに発表を膨らまして伝えました。
まあ、簡単に言えば、こうしたメカニズムが作動したのだと、私は勝手に考えています。

[問題の波及]
私が心を痛めているのは、こうした報道がされ、世論のようなものを生み出した結果、多くの大学では、大麻事犯として逮捕された学生に対して、退学を含む厳しい処分を検討するようになってしまったことです。
従来、私は、手がけた薬物事件の被告人たちをできるだけ元の大学や職場へ戻すよう、努めてきました。できるだけ早く、スムーズに元の環境へ戻して、彼らを前向きにやり直しさせることも、私の仕事の一部だと心得てきたものです。
前回まで数回にわたって、大麻事犯者の実像のまとめを紹介したのも、彼らの実態をありのままに知っていただきたいという気持ちからです。非難、処罰、制裁を加えるだけではなく、どのような問題があり、どんな解決策が有効なのか、しっかり考えることが今必要だと思います。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
薬物関係の報道は、酒井さんの事件以来、叩くのが正義といった風潮が強く、虚説や検証不十分な情報で、勝手に盛り上がっています。この流れで、すへての薬物事犯に対して、叩いたり、厳罰化の意見をいう事が、自分の道徳的立ち場が上がると錯覚を起こしているのでしょう。

酒井さんご自身は、早く忘れたい気持ちで、事実、灰色無罪も執行猶予付き判決も、ご自身には同様でしょう。事実関係を否認し、戦う事は望み薄です。しかしこの証拠で有罪になると、特殊な判例で今後の指標にならなければ、まだ実害は少ないのでしょうが、判例化されると大変です。そうなると、所持や使用での起訴猶予は、実質的になくなってしまいます。ついに薬事犯は、起訴だらけとなります。拘留をどんどん延長し、足らなければ別の容疑で逮捕し、また拘留し、供述を具体的又は暗示的に強要し、その供述があれば、当事者主義の名のもとに、有罪となります。
過去に使用歴のある人は、尿検査の有無関係なしに、供述を得られれば、使用の罪で有罪にできるのです。どんな微量でも、約4mg(あくまで約)あれば、残りカスであっても、使用の目的で所持していたという供述さえ得られれば、所持で有罪に出来るのです。一般な使用量以下の所持なら起訴しないのは、検察の怠慢と言う事になります。

薬物事犯については、社会的制裁は正義となり、薬物事犯の人を起訴した時点で、公共の利益があるとして、事実関係の検証なしに、**に依るとして首尾一貫しない情報で、名誉毀損され、中傷され、あらゆる組織から解雇され、又は追放されます。そして執行猶予がついてもその人を再雇用したり、大学に再入学を認めるのは、社会的な問題意識がないと言う事になります。






のら猫
2009/10/20 12:42
加害者を裁かず被害者を薬物事犯として裁いているように思うのです。薬物の一番最初のかかわりは、環境的要因、遺伝子的要因、そして/あるいはリスク要因(家庭、薬物乱用者の存在など)に影響されるのでしょう。この要因こそが加害者であって、被害者は、その後、薬物の効果によって脳に作用され、薬物を欲し依存症になるのです。この薬物乱用に対する治療システムは驚くことに日本においては法律に違反した行為に対する処罰や投獄による倫理的な処置のみであり、医学的、精神的、心理的、あるいは社会文化的なケアが一切されないのです。このような矛盾を知ってか知らずか、微量でも所持で起訴し、物証に乏しくとも供述など総合して使用で起訴し、報道は冷静を取り戻すことなく、単に被害者を犯罪者として増やそうとしているしか思えない、何故。
あらま
2009/10/20 22:45

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