弁護士小森榮の薬物問題ノート

アクセスカウンタ

zoom RSS 大麻取締法改正論を批判する―その7

<<   作成日時 : 2008/12/10 21:57   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

■論点その2、大麻取締法に使用罪がないのは不備か
2、世界の薬物規正法は使用罪の原則不可罰化に向かっている

EU加盟国での薬物法規制において、薬物使用罪はどのように取り扱われているのか、具体的に検討してみましょう。引用するのは、EUの薬物乱用研究機関EMCDDAの次の報告の一部で、私が個人的に翻訳したものです。この報告には日付がなく、内容からみると数年前のものかと思われますので、各国の状況には、その後、多少の変化が生じているかもしれませんが、大きな変動はないと思います。なお、原典では以下の内容は表で表されていますが、わかりやすく書き改めました。

「EU加盟国における薬物の不法使用と法的対応」
Illicit consumption of drugs and the law - Situation in the EU Member States

●薬物使用に対するEU15か国の司法対応
[ベルギー]
法の規定―未成年者の前での使用のみ禁止される
罰則 ――3月から1年の拘禁及び/又は罰金€1000-€100 000.
[デンマーク]
法の規定―違反とされない
司法実務―薬物使用自体は処罰されない
[ドイツ]
法の規定―違反とされない
司法実務―薬物使用自体は処罰されない
[ギリシャ]
法の規定―禁止されている
司法実務―15日〜5年の拘禁。非依存者の前での使用の場合は拘禁及び/又は罰金。依存者による使用に対しては強制的トリートメント。初犯者には判決免除も。
[スペイン]
法の規定―公共の場所での違反は重罪
罰則 ――行政処分
司法実務―1992年2月21日の法によれば、公共の場所での薬物の所持及び使用は公衆法上の重罪で、行政処分を受ける。
[フランス]
法の規定―禁止
罰則 ――1年以下の拘禁刑及び/又は罰金。依存者トリートメントの進行によって手続は免除される場合がある。強制トリートメント命令もありうる。
司法実務―1999年6月、法務大臣によって、単純使用の事案は、他の重大な違反がないかぎり起訴しないよう勧告がなされた。
[アイルランド]
法の規定―あへんの使用のみ禁止
罰則 ――略式手続では1年以下の拘禁及び/又は罰金。正式起訴では14年以下の拘禁。
司法実務―あへんのみの形式的な禁止規定であり、使用罪では起訴されない。
[イタリア]
法の規定―違反とされない。
司法実務―使用罪自体は不可罰。
[ルクセンブルグ]
法の規定―非犯罪化されている。
罰則 ――大麻:罰金€250-€2500。その他の薬物:8日から6月の拘禁及び/又は罰金。
司法実務―初犯者には警告を与え、依存者に対してはトリートメント。機会的使用者のケースに対しては厳しくない処罰が適用される。
[オランダ]
法の規定―制限のある場所での違反には制裁を科す。
罰則 ――制限のある場所で違反した場合は、4月以下の拘禁又は罰金。
司法実務―薬物の使用及び0.5gまでのリスト1物質(リスト2の物質は5gまで)の所持は起訴されないが、発見された薬物は押収される。
[オーストリア]
法の規定―違反とされない。
司法実務―薬物使用自体は処罰されないが、薬物乱用が疑われる場合、とくに生徒や軍役についている者の場合は、公共機関が、薬物問題の訓練を受けた医師の下に対象者を送付し、トリートメントが必要か否か医学的な検査を行わせる。
[ポルトガル]
法の規定―非犯罪化されている。
罰則 ――対象者は委員会に出頭するが、委員会は使用者にトリートメントを勧めるか、罰金を科す権限を有する。
[フィンランド]
法の規定―禁止されている。
罰則 ――2年以下の拘禁又は罰金。依存者のトリートメント振興によって判決は免除されうる。
[スウェーデン]
法の規定―禁止されている。
罰則 ――軽罪の場合は6月以下の拘禁及び/又は罰金。他の違反は3年以下の拘禁。
司法実務―薬物の個人的使用に対する通常の処罰は罰金。
[UK:連合王国]
法の規定―あへんの使用のみ禁止されている。
罰則 ――6月以下の拘禁及び/又は罰金(略式手続)、14年以下の拘禁(正式起訴)。
司法実務―あへんのみの形式的な禁止規定であり、使用罪では起訴されない。

以上、出典はEMCDDA が提供しているヨーロッパ薬物法制データベース(ELDD)より。
http://eldd.emcdda.europa.eu/html.cfm/index5748EN.html

引用が長くなってしまいましたが、実は、各国の司法実務は外部者にとって大変わかりにくく、しかも、きちんとした報告が少ないので、その意味で、上記はとても貴重な参考資料です。

上の資料では、ルクセンブルグやポルトガルでは薬物使用について「非犯罪化されている(decriminalised)」となっていますので、これについて補足しておきます。非犯罪化(decriminalization)という言葉の意味は必ずしも明らかではありません。非犯罪化は合法化(legalization)の同義語として使用されることもあれば、厳しい刑罰の緩和を意味することもあります。Douglas Husakは『薬物の合法化』という本で「非犯罪化という言葉が厳罰の緩和と定義されるならば、薬物の非犯罪化を支持しない論者を見つけることはほとんど不可能だ。」と述べています(Douglas Husak,Peter de Mrneffr,The legalization of Drugs : Cambridge University Press,2005)。

こうして国別の状況を並べてみると、EUの中央部に位置する15カ国においては、現在、薬物使用罪によって拘禁刑が科されることは、通常はないことがわかります。
わが国の状況を同じ形式で表すと、次のようになるでしょう。
[日本]
法の規定―大麻及び向精神薬には禁止規定がない。他の薬物は禁止されている。
罰則 ――メタンフェタミン及びアンフェタミン:10年以下の拘禁。麻薬に指定されている薬物及びあへん:7年以下の拘禁(ヘロインは10年以下)。
司法実務―初犯者に対して刑の猶予がありうるが、拘禁に替わる代替措置はなく、法の規定が厳格に適用されている。

EUの現状と比べると、まるで不思議な国の制度を見ているような気分さえしてきますが、これがわが国の現実なのです。
なお、ご注意いただきたいのは、ここで取り上げているのは「薬物使用罪」であり、大麻に限った話ではありません。具体的にみてきたとおり、私たちがよく知っている西欧の諸国では、現在、基本的にすべての薬物について、営利的な取引などの事情がない単純使用に対して、拘禁刑が科されることはありません。
こうしたなかで、いま、わが国では「大麻にだけ使用罪がないのは法の不備だ」という声が上がっているのです。私は、むしろ「覚せい剤や麻薬の単純使用に対して、日本だけが懲役刑を科しているのは、国際的な均衡を失している」と主張します。大麻取締法に使用罪がなくて幸いだと、私は大真面目で考えています。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
大麻取締法改正論を批判する―その7 弁護士小森榮の薬物問題ノート/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる