弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 大麻取締法改正論を批判する―その9

<<   作成日時 : 2008/12/13 03:18   >>

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■論点その2、大麻取締法に使用罪がないのは不備か
3、薬物使用を犯罪として処罰する根拠は

薬物乱用の害を防止するために、薬物の製造、輸入、販売などの不正取引から末端の乱用者の使用、単純所持などの乱用行為までを幅広く禁止し、違反者に対して厳しい処罰を科すという、わが国の法規制の基本は、刑法にあるのではないかと思います。

刑法は、第14章「あへん煙に関する罪」で、あへん煙膏の乱用に対して厳罰をもって取り締まっています。罰則をもって禁止している行為は、@あへん煙の輸入、製造、販売、販売目的での所持、A吸食用器具の輸入、製造、販売、販売目的での所持、B税関職員によるあへん煙又は吸食用器具の輸入、又はこれらの輸入を許すこと、Cあへん煙吸食のため建物又は室を提供して利益を図ること、Dあへん煙の吸食、Eあへん煙又は吸食用器具の所持、と多岐にわたっています。

現行の刑法は明治40年に制定されたものですが、「あへん煙に関する罪」の内容は、前身である旧刑法からほぼそのまま引き継がれてきたもので、さらにさかのぼると、明治3年の太政官布告521号「販売鶏片烟律」にほぼ同じ内容の規定を見出すことができます。つまり、現行の刑法第14章は、明治3年に原型ができたものが、あまり変化せずにそのまま現在の法律に生かされているのです。
明治3年(1870年)ころは、中国国内でのあへん生産が急増し、あへん禍がいよいよ深刻さを増していた時期です。隣国の状況に明治政府は脅威を感じ、いち早く、あへん乱用に対して厳罰をもって臨む方針を打ち出し、その波及を防止しようとしていました。明治3年の「販売鶏片烟律」では、あへん煙膏を販売・吸食誘引等した首犯は斬刑、従犯は7年の流刑、また誘われて吸食する者は1年の徒刑などと、極めて厳しい処罰が定められていました。(幕末から明治のあへん規制の歴史については、当ブログ10月18日で概要を書いています。http://33765910.at.webry.info/200810/article_16.html )

現在では、刑法のこの規定が実際の刑事手続で適用されることは、めったにありません。あへん煙膏の乱用例が少なく、また、あへんやけしがらに関する違反に対しては、より重い処罰を定めているあへん法が適用されるからです。しかし、第二次大戦後、薬物規正に関する現在の各法が制定されるまでは、わが国の薬物規制の基本をなしていたのが、刑法のこの規定でした。

しかし、なぜ末端の乱用者の単純所持や使用に対して、このように厳しい罰則を定めているのでしょうか。その点について、古い刑法の解説書に興味深い注釈をみつけました。大正11年に刊行された、泉ニ新熊(もとじ しんくま)著『日本刑法論 下編(各論)』有斐閣、1052-1054頁の「総説」から概要を紹介します。原文は漢字カタカナ表記の文語調なので、現代語で概要をまとめました。
「刑法は自殺未遂及び自傷行為を処罰せざるを原則とすることから、自らあへん中毒を招く者もこれを放任するべきであるという考えもあるが、遠い大患を考えずに近くにある快感を貪るのは人情の弱点であり、あへん吸食の悪習は社会の各層を侵犯し、そのために職を失い、家を滅ぼす者も多く、国民あげてあへんの毒に耽溺して悔いないのは、実に国家的問題であるといわざるをえない。本罪の規定を設けているのは、実に止むを得ない事情があるというべきであり、本罪を公共の衛生に関する罪の一種とするゆえんである。」
「あへん煙に関する罪は欧州諸国の法律に存在せず、東洋諸国の法律に特有なものである。19世紀の初頭より英国商人がこれを中国に輸入し、中国人民を害毒すること著しく、ついに1841年のあへん戦争を惹起するに至った。以来、本邦においても害毒伝播の危険がおおいにあったことから、中国の刑律と同様に厳刑をもってこれを阻止することにつとめ、明治元年布告のあへん煙草に関する規定を設け、その後明治3年布告の新律綱領(「販売鶏片烟律」のこと)ならびに旧刑法を経て新刑法の規定となるに至っている。ただし、新律綱領以前では、本罪につき死刑を科していたが、旧刑法以後はその処分が緩和されている。」

あへん乱用の伝播を防止しようとした明治政府の切実な思いが、このように幅広く、厳しい罰則を設ける背景にあったことが、大正11年の文献にはありありと記載されています。著者もいうように、これは、ある種の非常事態の特別規定ともいうべきもので、「実に止むを得ない事情がある」なかでの制度として生まれたものです。さすがに死刑を科すことはその後緩和されましたが、規制の枠組みはそのまま残り、その後の立法に影響を与え続けることになりました。

この部分は、現在の刑法解説書では、次のようにさらりと説明されています。
「■保諜法益
あへん煙の吸食は,その依存性の強さなどから,吸食者自身の心身を害するばかりでなく、その風習が広がるときは、国民生活を類廃させるなどの種々の弊害をもたらすものである。本罪は、国民の健康保持及び国民生活の類廃防止の観点から、あへん煙の吸食等を処罰しようとするものであり、その保護法益は公衆の健康であると理解されている。」(大塚仁ほか編『大コメンタール刑法(2版)7巻』359-340頁、青林書院、2005年)

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